テラーノベル
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「じゃあねー……『5番』の人! テーブルにあるビール、イッキしてくださーい♪」
「おっ、王道なやつ来たぞ!」
「5番誰だ~!?」
周りの年上社員たちが野次馬根性で盛り上がる中
(5番って、誰だろう……?)と辺りを見回した。
その瞬間、私のすぐ隣で
完全に顔を青ざめさせて固まっている佐藤くんの姿が目に飛び込んできた。
彼の手元にある割り箸の先端には
赤黒いマジックでくっきりと『5』の数字が書かれている。
「え…5番って、まさか、さ、佐藤くん?」
「……みたいです。し、死にました、俺。みんなの前でまた恥かいて、トラウマ上書きされて死ぬんだ……っ」
冗談めかしてはいるが、佐藤くんの指先は明らかに小刻みに震えていた。
顔色も最悪だ。
過去のトラウマがある彼にとって
この「みんなの注目を浴びての一気飲み」は、精神的にも肉体的にも拷問に等しいに違いない。
「そーれっ!イケイケ!」
「ヤバ!動画回しちゃお~!」
周囲の悪ノリは最高潮に達しており、佐藤くんに退路は残されていないようだった。
青い顔をしてジョッキに手を伸ばそうとする後輩の姿を見た瞬間。
───またしても、私のあの「お節介な正義感」が、理性より先に身体を動かした。
気づいたときには
私は佐藤くんの前に置かれたなみなみと注がれたビールジョッキを横からひったくり、勢いよく立ち上がっていた。
「え?先輩……!?ちょっ、なにして」
静止しようとする佐藤くんの焦った声を置き去りにして、私はジョッキを口元に当てた。
「私が、代わりに飲むからっ!」
目をつむり、一気にビールを喉へと流し込む。
ゴクリ、ゴクリ、と激しい炭酸が喉を容赦なく刺激し
冷たいアルコールが胃の腑へと濁流のように流れ込んでいく。
苦い、痛い、でも止まったら負けだ。
必死に喉を動かし、最後の一滴までを胃に流し込んだ。
「ぷはっ……!」
空になったジョッキを、テーブルの上のコースターにドンッ!と激しい音を立てて叩きつける。
「えっ!桜ちゃんすごっ……!?」
「いい飲みっぷり~!よっ男前!」
「かっこいいー!」
座敷からは割れんばかりのどよめきと拍手が湧き起こり、場は一気に別のベクトルで盛り上がった。
「はいっ、おしまい!」
「…先輩……っ」
隣に座る佐藤くんを見ると、彼は完全に呆然とした表情で私を見上げていた。
「先輩、だ、大丈夫ですか…?お酒、苦手だって言ってたのに…なんで……」
「…かっこいいところ、見せたかったの…後輩を、守るのが……先輩、れしょ……っ」
バシッと格好良く決めたかったのに、やはり急激に大量のアルコールを摂取したせいで
呂律が怪しくなっていく。
それと同時に、視界がぐにゃりと歪み、凄まじい熱気が一気に脳まで駆け上がってきた。
#TL
瀬名 紫陽花
14,533
#BL
多 動 症 .
30
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