「人間が嫌になるほどとは・・・よっぽどのことですな 、その理由をお聞きかせ願いますか?どうして離婚されたのですか?」
ハァー・・・と百合はため息をついた、煙が彼女の顔を一瞬隠し、過去の傷が浮かび上がる
「夫の愛人に子供が出来たので、私はお払い箱になりました・・・警部さん・・・もういいでしょう?私の事はあなたはよくご存じのはず、そろそろ本題に入りましょう、わざわざ日本から私を探しに来た理由を聞かせてください」
後藤田は一瞬目を細め、彼も本題に入る決意をした
「わかりました 、あなたに殺害容疑がかかっています、杉山百合さん・・・」
彼はポケットから小さなノートを取り出し、ページをめくる
「親子のいがみ合いから、猟銃で父親を殺した『高村和樹』という大学生ですが、殺人をする前日に大学で仲の良い友人に体調不良を訴えていたそうです、これ以上具合が悪くなるのは嫌だから彼の婚約者が調合した薬は飲まない様にするとね・・・友人達もその薬を怪しまれていました・・・その薬の名前は・・・」
後藤田の目が獲物を追い詰める獣の様に怪しく光った
「『リキッド・エクスタシー』この薬の成分は『メチレン・ジオキシ・メタンフェタミン・・・』」
警部は百合に検視報告書を差し出して言った、紙を縁側のテーブルに置かれ、風にわずかに揺れる
「検視の結果、高村和樹は急性薬物中毒の数値を超えていました、そして・・・父親の高村隆二の検査結果も同様に、数値を遥かに超えたメタンフェタミンの過剰摂取の数値が出ています」
警部は身構えた、ここまでは全て状況証拠であって、確たる証拠は何もないからだ、なので質問は微妙な言い回しにならざるを得ない、彼の目は百合の表情を一瞬たりとも見逃さないと百合を見つめた
「その高村和樹の婚約者と言う人物は、彼の学友の中でも有名でしてね 、それはそれは目の覚める美人だとかで・・・大学を卒業後、彼女は夜の世界に身を投じたそうで、彼女を追いかけて散財した者も少なくはないそうですよ」
「それは私ですね」
百合の口調は自然だった、彼女は水タバコを置き、静かに後藤田を見据えた、警部は百合の表情を伺った 、どんな些細な事でも見逃さない勢いで小さく何度も頷いた
「そうでしょうともね・・・あなたはとても美しい」
後藤田の声には皮肉が混じる、百合は目を伏せて唇に薄い笑みを浮かべた
「どうしてこんなに時間がかかったんですか?ずっと待っていたのよ」
その言葉に後藤田の眉が一瞬上がった、 彼女の落ち着きが後藤田に不気味さを感じさせたに
「申し訳ない・・・こちらも色々事情があるんですよ、ましてやあなたが中国に渡られたものですから・・・色々手続きがね、国際指名手配などね」
そう言いながら警部はポケットから逮捕状を差し出した、薄い紙が風に揺れる、百合はその逮捕状を見てもその表情からはいささかの変化もなかった、百合の目は、まるで全てを受け入れたかのように静かだった
「あなたは、20年前に高村隆二の子供を中絶させられた恨みから、二人に近づき、メタンフェタミン(幻覚剤)入りの『リキッド・エクスタシー』を二人に定期的に投与した、二人を争そわせて殺し合うように仕向けるためにね・・・たしかに高村隆二を撃ったのは息子の和樹です・・・だが、彼はすぐに心臓発作で死んでしまった、それはメタンフェタミンの過剰摂取によるものです・・・どっちみち和樹が父親を撃たなくても、あの二人は死んでいたでしょう・・・急性薬物中毒の検査数値は致死量を遥かに超えています」
後藤田の声は重く・・・縁側に響いた、百合は水タバコの煙を吐き出し、ゆっくりと顔を上げた
「そう・・・」
百合はこれで全てを見透かしたかのように冷たく言った
「それがずっと知りたかったの・・・どれぐらい飲ませれば死ぬのか見当がつかなかったから」
彼女の言葉に後藤田の背筋が凍った
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