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「翔くん、こっちこっち!」
灰色のふわふわした髪を揺らしながら、なろ が雪面を滑り降りていく。
「おいおい、なろっち。そんな飛ばしたら危ないで〜」
翔 は、しっかりとしたフォームで滑りながらも、目は常に彼を迫っていた。
兄貴分らしい落ち着きはあるが、どこか優しい声音だ。
空は徐々に雲が厚くなり、風が強まっていた。
「……あかん、天気崩れてきたわ」
翔が空を見上げた瞬間だった。
ゴオオオォォー
突風が雪を巻き上げ、視界が一気に白で塗りつぶされた。
「なろっち、一回戻ろ! こんなん危ないわ!」
「え、翔くん、もうちょっと――」
その声は吹雪にさらわれ、翔には届かなかった。
気づけば、なろの姿がどこにもない。
「……なろっち?」
返事はない。
翔は焦りを必死で押し殺し、雪の中を歩き回った。
救助隊に連絡はついたが、返ってきたのは冷たい判断だった。
――この天候では救助は不可能。
――安全な場所で待機してほしい。
「待っとれって……そんなことできるかいな……」
翔は歯を食いしばった。
細くて寒がりのなろが、この吹雪の中で無事なはずがない。
「……絶対見つけたるで」
翔は決意を胸に、ホワイトアウトの世界へ飛び込んだ。
「なろっちーー!! 聞こえとるか――!!」
叫んでも叫んでも、吹雪は返事を奪い去る。
雪の上を何度も滑って転び、膝が沈む。 指先の感覚が薄れ、体温も奪われていく。
「なんでや…….どこ行ってしもたんや……………」 諦めの影が心に差し始めた時。
足元に、鮮やかな緑が見えた。
「………………これ………………なろっちのニット帽やんか………………!」
翔の胸に一気に熱が灯る。
「近くにおる……絶対近くにおるはずや!」
雪をかき分け、必死に探す。
そして――
白の下に、ふわふわの灰色が見えた。
「なろっち!!」
翔が雪を払うと、そこには倒れているなろがいた。 顔は真っ青で、唇は小刻みに震えている。
「………………しょ………………くん………………?」
かすかに開いた目が翔を捉えた。
「アホ! なんでこんなとこおるんや……………!」
声が震える。 なろの体は軽く、冷え切っていた。
呼吸は浅く、胸がわずかに上下するだけ。
「大丈夫や……..大丈夫やで…….今、助けたるからな……..……!」
翔はなろを背負い、吹雪の中を必死に歩き出した。
しかし、吹雪はさらに強まり、前へ進むほど体が押し戻される。 視界は白く染まり、自分がどこに向かっているのかさえ曖昧になる。
背中のなろが小さく震え、頬が翔の首に触れた。
その温度は弱く、今にも消えそうだった。
「………………さむい……翔くん……」
かすれた声が耳元で震える。
「大丈夫や、大丈夫……寝たらあかん、なろっち…….俺の声、聞いとって……………」
だが、気づけばなろの呼吸はさらに浅くなっていた。
「なろっち!! なぁ、返事してえ…………!」
返事は風に消えた。
翔は立ち尽くした。
地鳴りのような風の音。
白い壁のような吹雪。
――このままじゃ、なろっちが…….
唇を噛み、翔は天を仰いだ。
「頼む………………誰か………………! 助けてくれ………………!!」
その叫びは、果てしない白の世界に吸い込まれていった。