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「――――イン、ユーイン。拗ねてるのか? 開けてくれ」
「そ、ソリス殿下、良いですって……」
ソリス殿下と、ユーイン様の部屋に戻ったが鍵がかかっているようで中々開けることは出来なかった。
(どちらかというと、中から押されているような……)
押しても引いても開かない扉。嫌な予感がしつつも、ソリス殿下は無理矢理扉を蹴破ることはしなかった。彼なら出来るだろうが、それをしないのには理由があるだろう。確かに、無理矢理中に入ったとして、ユーイン様が応答してくれるかも分からないし。
焦れったくなってきた。
「彼奴……もしかして」
「どうしたんですか、殿下」
「いや……蹴破った方が早いかと思って」
「はぁ」
私も思っていたところだ、と言おうと思ったけれど、口から出たのはなんとも言えない情けない声だった。初めからそうしていれば……何ても思ったが、先ほどの事で結構沈んでいて、そう言い返す事が出来なかったのだ。
「ステラ、離れてて」
「あ、いや、私がやりますって。こういうの、私の専売特許ですから」
「そう?」
「はい。後、イライラしてきたので」
私がそういうと、ソリス殿下は一瞬きょとんとした顔をしてから、小さく吹き出した。
(やっぱり、おかしいことを言ってしまっただろうか)
私は、少し恥ずかしくなりながら、足を大きく振り上げる。
そのまま勢いよくドアノブに叩きつけるように蹴りを入れると、バキッという音と共に、扉は開いた。
(バキ? 矢っ張り、ソリス殿下の言ったとおり……かも)
ソリス殿下は、また笑い出す。
「何笑ってるんですか」
「いや、だって……ハハッ」
「……もう……というか、ユーイン様、魔法使ってたんですね」
「他人への拒絶……かな」
と、ソリス殿下は、涙を拭きながらこぼす。
蹴ったときにも多少なりの手応えがあった。扉が開かなかったのは、内側から魔法で押されていたから。いや、氷魔法によって扉をふさがれていたからである。蹴破って何とか、扉を破壊することで侵入できたが、先ほどの暖かみがありつつも殺風景だった部屋は、雪国のようになっていた。
一面氷。
中に入れば、冷気が体を包むくらいに部屋は凍っていた。まるで冷凍室の中にいるようだ。
その中心にいるのは、やはりと言うべきか、ユーイン様である。
彼はこちらに背を向けたまま、私たちの方を見ようともせず、ただじっと立っていた。
その様子は、今まで見たことがないほど不気味で、正直怖かった。
でも、それよりも、彼が何でこんなにも悲しく見えるのか、私には分からなかった。
「ユーイン、皇宮内での高魔法の使用は禁止だっただろう。お前の魔法は危険すぎる。周りに被害が出たら……」
「何で入ってきた」
振向いたユーイン様は、冷たい瞳で私達を睨んできた。
けれど、私を捉えた途端、その瞳が少し揺らぐのが見えてしまった。何だか気まずい。そう思いながらも、私は引くことが出来なかった。
先ほどまでは、落ち込んでいたけれど、ソリス殿下がくれたチャンス。それに、殿下の隣にいたら心強くて、先ほどよりも強く出れた気がした。
「ユーイン様と話をしたいと思ったから」
「ステラ」
「……さっき、引き止めて下さると思ってました。なのに、ユーイン様は引き止めて下さらなかった」
ああ、だだっ子みたいなことを言っている。そんな自覚はあったけれど、もし、ユーイン様が本気で私のことを好きだと言ってくれるのなら、これぐらい言っても良いんじゃないかと思った。まあ、何とも思われていなかったらその時だし……
ユーイン様はハッとした顔をしたが、すぐにその顔を曇らせた。
分からない。矢っ張り何を考えているか分からないのだ。
「兄貴は、何でここに来たんだ」
「そりゃ、お前が意気地なしのヘタレだから。そして、ステラを傷付けたから」
と、ソリス殿下は淡々と応える。
いつもニコニコと笑っている彼は何処にもいなかったのだ。
本気で怒っているような、そんな雰囲気がこちらまで伝わってくる。
この二人の間に入れる余裕なんてないように思える。
(私じゃ、この二人は止められないだろうな……)
そう思って、私は一歩後ろに下がった。
すると、それに気付いたソリス殿下は小さく微笑みかけてくれた。
それから、またユーイン様に向き直ると、ゆっくりと彼に近付いていった。
「お前が、本気でステラを好きなら、彼女のことを考えたらどうだ」
「考えている。お前に言われなくても僕は……」
「考えているなら、ステラはさっき、お前の部屋から出てきたとき泣いてなかっただろうね」
「……!?」
ユーイン様の目が見開かれる。
さすがに、言わないで欲しかった。恥ずかしいし、ユーイン様もこちらを見ているし。
「ステラが……泣いていた」
「いいいいい、いや、私泣いてませんから!」
私は、思わず嘘をついた。何でそんな恥ずかしいこと、言うのだろうかと、ソリス殿下を見たが、彼の耳には届いていないらしい。と言うか、多分そんなことどうでもイイのだろう。彼が怒っているのは、怒りを向けているのは今ユーイン様なのだから。
「兄貴……」
「君が、ステラを泣かせるなら……俺が、ステラを貰う。俺の方がステラのこと幸せに出来るから、ね?」
と、殿下が言ったかと思えば、ぐいっと私の腰を引き寄せた。
いきなりのことでびっくりして声が出なかったが、私は慌てて殿下から離れようとする。しかし、それを察していたかのように、殿下の腕の力が強くなった。
それは、逃さないと言っているようで、私は抵抗を諦める。諦めざるを得なかった。
ギリッと奥歯を噛み締める音がこちらまで聞え、私は顔を上げる。先ほどよりも部屋の空気が下がった気がする。
「誰が、ステラを……」
「だから、俺がステラを貰うって言ってるんだ。ユーイン。お前じゃ、ステラを笑顔に出来ないだろ?」
「巫山戯るな」
ふざけてないよ、とユーイン様は笑う。
嘲笑……というか、挑発的な笑みを浮べて。
「じゃあ、力尽くで奪ってみるか? それの方が、ステラも良いでしょ?」
「え、何で私?」
「ステラは強い男が好きなんだろ?」
と、殿下は微笑む。
確かにそうだけど、私の人権がないように思える。
だが、私は頷くことしか出来なかった。