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4月。新しい年度が始まってすぐのこと。
「じんちゃん、3年生って、もっと大人っぽいかと思ってたわ」
そう言って笑った太智の顔も、去年とは少し違っていた。
やんちゃな雰囲気は変わらないけれど、どこか穏やかで、落ち着きすら感じさせる。
「……十分大人っぽくなってるよ」
「ほんまか?」
「うん。……特に、去年の秋からね」
仁人が少しだけ頬を赤らめながらそう言えば、太智も気まずそうに笑った。
ふたりはもう、互いのことを深く知っている。
気持ちも、身体も──。
ただ、その先の“未来”までは、まだ明確に決めきれずにいた。
「なぁ、じんちゃん……進路って、もう考えてる?」
夕方のベッドに並んで腰掛けながら、太智がぽつりと尋ねた。
「……うん。家からも言われてるし、志望大学の候補はあるよ」
「そうか……」
「もし、志望が別々になっても……俺たち、続くかな」
その言葉に、仁人は迷いなく首を横に振った。
「だいちゃんがどこにいても、関係ないよ。……一緒にいるって、決めたんだから」
言葉の強さに、太智は息を呑んだ。
「じんちゃん……」
「もちろん、同じ大学に行けたら嬉しいよ。でも……選択は、ちゃんと自分のためにしてほしい」
太智は少しの間だけ目を伏せたあと、仁人の手を握り返す。
「ありがとう。……でも俺、やっぱり仁人と同じとこ目指したいわ」
「え?」
「俺、勉強はあんまり得意やないけど……頑張るから。同じとこ行けたら、もっと一緒にいられるやろ?」
仁人は思わず笑って、太智の肩に額を預けた。
「……ほんと、ずるいんだから」
けれどその「ずるさ」が、今の自分をどれだけ支えているかも、ちゃんと知っていた。
寮の部屋に、春の夕陽が差し込む。
時間はゆっくりと進んでいるようでいて、確実に前に進んでいた。
ふたりの未来も、きっと、少しずつ。