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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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日付が変わる頃、電話で呼び出されて、私はタクシーで蒼のマンションに向かった。

蒼が城井坂麗花と会っていると思うと、眠れるはずはなかった。

『これは蒼の仕事だろ』

蒼と城井坂麗花の接触をやめさせようとした私に、充さんはそう言った。そして、私が宮内に近づかないよう、今日一日外勤に連れまわした。

『会いたい』と言った蒼の声は、疲れ切っていた。


城井坂麗花と何があったのだろう……。


玄関に入るなり、私は蒼に抱き締められた。シャワーを浴びていたようで、彼の髪は濡れていた。

「蒼?」

私は少し強引に蒼に手を引かれ、寝室に入った。

「蒼、どうしたの?」

私の問いには答えず、蒼は私を抱き寄せてキスをした。甘く、深い、貪るような激しいキス。いつもより長く激しいキスに、私は息をするのもままならなくなってしまった。

「ちょ……、待って……」

酸素を求めて蒼を押し退けた時、彼がいつもより早く固くなっていることに気がついた。

「悪い……。後で話すから、今は黙って相手して——」

そう言うと、蒼は言葉もなく私を抱いた。もっと無理やりにされるような気がしたのに、触れる手はいつもより優しく感じたし、焦っているように見えたのに、私を悦ばせる時間はいつもより長く感じた。

「蒼……」

挿入たいのに挿入ないし、私には触らせようともしない。ひたすら私を可愛がるだけで、誰かと我慢比べでもしてるみたいに、自分の快感を求めようとしない。

「そ……う。もう……」

焦らされて、イかされて、意識がなくなるかと思った頃、ようやく蒼が一言だけ発した。

「ごめん、咲……」

激しく揺さぶられ、快感に身悶えし、私は蒼の『ごめん』の意味に気付かない振りをした。


どうせもう……離れられない——。


蒼が城井坂麗花から手に入れた情報を話し終えた時、陽が昇り始めていた。

「どうする?」

「ん……」

蒼は情報を手に入れた状況については話さなかったし、私も聞かなかった。蒼の様子からして、『キス以上』のことがあったのは確かだろう。

私は嫉妬を蒼に悟られないように、彼の胸に顔をうずめていた。

「金融庁への認可申請は三週間後だ。グループ内にいる広正伯父さんの仲間や、株の動きを探るには時間がないだろう?」

蒼が指に私の髪を絡めて弄る。

「大丈夫。それだけわかっていれば調査対象を絞れるから、三週間も必要ない」

「そうか……」

「ありがとう、蒼」

「ん……」

この情報のために、蒼が無理をしたことはわかっている。そうさせたのは、私だ。蒼が何をしたとしても、私は責められない。

「出社前に着替えに帰るね」

「ああ……」

私は蒼にキスを残して、部屋を出た。


*****


家に帰った私はシャワーを浴びて着替え、朝食を取りながら真に蒼からの情報を伝えた。テーブルの上のスマホは侑と繋がっていた。

『なるほどね』と侑が言った。

「侑、百合さんと手分けして株の流れを調べて」

『了解』

「俺は和泉社長に連絡する」と、真が言った。

「お願い。私は充さんと、内藤社長の仲間が誰なのかを探るわ」

『明日のパーティーはどうするんだ?』

侑がカップをテーブルに置いた音が聞こえた。

「根回しは済んでる。蒼の婚約は発表されないし、フィナンシャルと城井坂マネジメントの提携は破棄される」

『俺は?』

「パーティー後の城井坂の動きをマークして」

『わかった。何かわかったら連絡する』

侑との通話が切れ、私はクロワッサンを頬張った。

「蒼は明日のこと知ってるのか?」

スクランブルエッグを口に運びながら、真が聞いた。

「言ってない」

「また、自分だけ知らされてなかったって、拗ねるぞ?」

「内藤社長と城井坂家に悟られるわけにはいかないから」と言って、私はミニトマトを口に入れた。

「それより、明日の準備は?」

「ああ……、俺の方は問題ない」

「では、予定通り」

私はコーヒーを飲み干して、立ち上がった。

「咲、大丈夫か?」

「何が?」と言いながら、私は食器をキッチンに運ぶ。

「ひどい顔してるぞ」

「寝不足なだけよ」

「そうじゃない。お前、蒼と——」

「わかってる!」

私は感情に任せて食器をシンクに叩きつけた。スクエアの皿の角が欠けてしまった。

「会社の為とはいえ、蒼とあのお嬢様に何かあったと思うと……ムカついて仕方ない!」

溜め込んでいた気持ちを吐き出して、私は自己嫌悪に陥った。

「お前が宮内に近づいてたら、蒼も同じように怒り狂ったんだろうな……」

「わかって……るよ……」

泣くな!


そもそも、蒼にこんなことをさせたのは、私だ——。


私は深呼吸をして、涙を堪えた。

「咲、明日は好きなだけ毒づいていいから、今日は目の前の仕事に集中しろ」

「わかってるよ……」

私はわざと割れた皿の欠片に右手の人差し指を押し付けた。シンクに血が滲んだ。

「蒼の婚約者気分に浸ってられるのも、今日だけよ——」

私は血の滲む指先を舐めた。


女は秘密の香りで獣になる

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