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#ハッピーエンド
167
「サイラス王太子殿下、申し訳ございませんが娘と2人で話させて頂けませんか?」
応接室にいたイザベラの父親であるライト公爵の言葉に寂しさを覚えた。
私は彼の娘ではないのに、気付かないのだろうか。
「私は、ルイ国でイザベラ様の保護者とも言える立場です。会話には同席させて頂きます」
サイラス様は私の幼さを武器にし保護者という立場を強調してきた。
「サイラス王太子殿下、私は父と2人で話がしたいと考えております」
私はサイラス様に部屋を出てもらうように促した。
「分かりました。では、失礼します」
私を名残惜しそうに見つめてサイラス様は部屋を出た。
「お父様、どういったご用件でルイ国までいらっしゃったのでしょうか?」
「サイラス王太子殿下がお前をルイ国に連れてきたのは、我が家紋の力を利用しようと思ったのだろう。彼に惑わされてはいけない。今、アカデミーに入学したルブリス王子殿下はフローラ・レフト男爵令嬢と親密な仲になりはじめているらしい。ライト公爵家の一人娘であるお前を蔑ろにするとは思えない。しかし、ルブリス王子殿下は視野が狭いところがあるから心配なのだ。すぐにでもライ国に戻り、彼の気持ちを取り戻しなさい」
ルブリス王子殿下がフローラと仲良くしているという事実が不思議だった。
ヒロイン、フローラは優しい性格をしているが、今彼女に憑依している白川愛は優しさとは程遠い性格をしている。
性格が真逆と言えるほど違うのに、ルブリス王子殿下はフローラと恋に落ちるのだ。
物語の強制力のようなものが働いていないと説明がつかない気がする。
最も、意地悪な性格の白川愛は男性にモテていたので私に男の人の気持ちなんてわからない。
白川愛の憑依したフローラも男の人にとっては、魅力的なのかもしれない。
「ルブリス王子殿下は最初から私になんの気持ちも抱いていません。取り戻せる気持ちなどありませんよ。視野の狭いルブリス王子殿下よりも、ルイ国の優秀な王女と婚約したエドワード王子が王位につくのに相応しいのではありませんか?」
白川愛のような女に惚れる男など、上辺の言葉やルックスに群がる視野の狭い男の1人だ。
私自身が彼女が近づいてきた時、美人で社交的な彼女と仲良よくなりたいと彼女の内面を見ようとしなかった視野の狭さを持っていた。
「お前がルブリス王子殿下を好きだと言ったから、婚約を結んだのだぞ。イザベラ、彼の心を得ることに集中しなさい」
「私は彼のことが好きではありません。私は彼の機嫌を取るために存在するのですか?私のために結んだ婚約なら、今すぐ婚約破棄をしてください。扱いやすい王子を国王に据えて、王権を思うがままにしたいのではありませんか?」
「ルイ国で洗脳でもされたか、この愚か者が」
ライト公爵が手を振り上げて、私の頬まで手をおろして寸前でとめる。
「殴らないのに、なぜ手を振り上げたのですか。殴ってください、蹴飛ばしてください、気が済むまで私に暴力を振るったら私を自由にしてください」
毎日、中学に登校するとストレス発散のように殴られて蹴られていた。
それが当然の儀式のように感じてしまうほど、私の感覚は麻痺していた。
入院するほどの怪我を負うまでは、私は自分は暴力を振られてもおかしくない愚鈍な存在と自分のことを思っていた。
でも、今なら暴力を振るう方がおかしいのだとわかる。
「何を言っているんだ、気でも狂ったのか」
再び、ライト公爵が手を振り上げてくれるが、私はなんの恐怖も感じなかった。
明日も明後日も続く暴力ではない、今日痛い思いをすれば私は自由になれると思った。
「お辞めください。今から、緊急会議をするので、いらっしゃってください。大切な一人娘であるイザベラ様が心配なのは理解できますが、暴力はいけませんよ」
気がつけば、ライト公爵の振り上げた手首をサイラス様が握っている。
いつの間に部屋に入ってきたのだろう、ここまでのやり取りを聞いていたのだろうか。
私を一瞬心配そうな瞳で見つめた彼は、ライト公爵を連れて部屋の外へと出ていった。
私がララアと狩猟大会に到着し開始を待っていたら、突然サイラス王太子の補佐官が話しかけてきた。
「サイラス王太子を初め貴族の方々は夜通し会議をしております。ララア様、今日の狩猟大会の開始のお言葉をお願いします」
この世界を学びはじめてわかったことは、ライ国にとってライト公爵家がいかに重要かだ。
昨晩、国家と同等とも呼べる権力を持ったライト公爵が、娘イザベラをライ国に返すよう言ってきたのだ。
サイラス様が私のせいで一睡もせず、会議をしていることに胸が痛む。
「そうよね、ライアンお兄様は参加者だし、私しかいないわよね」
ララアが消え入りそうな声で呟く。
サイラス様は今日の狩猟大会の挨拶をする公務があったようだ。
彼の上にいる2人の兄は、王太子になれなかった時点で他国に婿入りしている。
国王陛下と王妃様は年始と建国祭の時のみ公の場に現れるらしい。
今は、サイラス様、ライアン王子、ララアで国内の公務を回しているのだ。
「ララア、何か手伝えることはありますか?」
隣で真っ青になっているララアに私は尋ねた。
「どうしよう。何も準備してない。何の言葉も用意してないわ」
「私がララアの代わりに挨拶することはできますでしょうか?私、どうしても皆に伝えたいことがあるのです」
ララアを助けたい思いと、今日ライ国に連れ戻されたくないから、連れ戻せないような事実を作りたい思いで私はララアに頼んだ。
「代わりに挨拶してくれるの?今日はアカデミー学生だけではなく、多くの有力貴族も来ているのよ。イザベラに任せてしまってよいの?私としては、準備不十分だから助かるけれど」
「私も挨拶を譲ってもらうと助かります。」
私を不安そうに見つめるララアの承諾を得て、私は壇上に立った。
「ライ国より交換留学生としてお世話になっております、イザベラ・ライトと申します。本日は、皆様にご挨拶をさせて頂く機会をもうけて頂きありがとうございます。2年間、この素晴らしい国で勉学に皆様と共に励めることに心から感謝を申し上げます。皆様は狩猟大会というものがなぜ開催されると思いますか?意中の令嬢への告白ならば獲物など仕留めず、自らの思いを言葉にしてください。射止めた熊の毛皮を剥ぎ想い人にプレゼントしたいのですか? まだ、親を追いかけているような子兎を狩るほど食に飢えているのですか?それとも目の前にいる空気の読めない他国の公爵令嬢を黙らせる程の何かがこの大会にはあるのでしょうか? 今まで、皆様の闊達な議論をする姿、ふとした時の優雅な振る舞いを見て感動しておりました。私は動物も人と同じくらい大切な命を持っていると考えております。その命を奪い、私たちの命が繋がれていることも理解しております。この大会の存在意義が、己の狩猟能力を示す以外の意味があればと考えております。弓の技術は動物を捉えるためにあるのでしょうか?愛する貴族令嬢の心を捉える為に小さな命は犠牲になるのでしょうか?この大会が終わる頃には、きっと空気が読めないライ国の公爵令嬢が納得いくこたえを皆様が示してくれると私は信じております」
私はとにかくサイラス様の側にいたくて、ルイ国に2年いたいという想いを大衆の前で話した。
改めて周りを見渡すと学生だけではなく、今まで見たことのない大衆がいる。
狩猟大会の開始の言葉を話し始める前に、大衆に目を向けなくて良かったとホッとする。
このような大衆を前にしたら、私は震えが止まらなく舌が回らなくなってしまうからだ。
私が開始の言葉を言って、しばらくすると狩猟大会の開始のファンファーレが鳴り響いた。
「イザベラ、開始の言葉を言ってくれてありがとう。あなたってすごいのね。あまりの深い言葉に私はこの大会の開催意義について考えさせられたわ」
「2年間ルイ国にいさせて欲しいという、私の想いが伝わったでしょうか?」
「イザベラは狩猟大会の開催意義について問いかけていたわよ。ルイ国に2年いたいという話をしていたの?いられるわよ、心配しないで。ライト公爵家が来たから不安になっているのね。サイラスお兄様を信じて、絶対にあなたを手放したりなんかしないから」
ララアが私を抱きしめながら語ってくる。
私はこの国に2年いると大衆の前で宣言することで、ライト公爵に連れ戻されることを防ごうと思っていた。
しかし、何を話したかも覚えていないくらい無心だった。
ララアの反応を見るに、まともに話せてもいなかったのだろう。
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