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テラーノベル(Teller Novel)
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中学二年生の頃のこと。夏休み前のある日、いつものように学校へ行くバスに乗った。するとあの子が同じバスに乗っていた。たまたま隣の席が空いてたから座った。

「おはよう」

「おはよー」

と挨拶する。その子とは特別親しいわけでもなく居心地が悪い訳でもないが、なんだか一緒にいると新鮮な空気を感じる。他の子と醸し出す雰囲気が違うように思う。どこか達観してるような大人な雰囲気でもあり、悟った気分になっている子供のような雰囲気でもあった。私は彼女のモノを見る目が好きだった。昔から私もどちらかというと、そっちの部類の人間だ。期待するなんて無駄だと初めから諦め、自分のことをわかってくれる人間などいないと知った気になっている。彼女も私と同じようにきっと俯瞰的な姿勢でモノを見ているのだろう。でも、彼女と私の違いは決定的だった。彼女は俯瞰した上で他人に手を差し伸べることのできる優しい人間だった。けれど私は、能天気に生きてると心のどこかで批判し傲慢になっていた。そんな彼女に親近感と尊敬の念をおぼえた。彼女との無言は驚く程気まずいものではなかった。沈黙は大の苦手だが。先程も述べた通り、新鮮で安心感さえも感じる。まさに女神のようだった。

バスは窓が大きくて一面にあるので、私たち二人が自然と目にしたものは同じだった。雲。入道雲。青という青い空にもくもくという効果音さえ聞こえてくるような雲。こちらに迫ってくるような雲。それは、まるで火山噴火の煙にさえも見える程。もうそこにある雲は私たちを飲み込んでしまいそうに思えた。そしてバスはその入道雲から必死に逃げるかのように走っているのではないか。私たちは、この入道雲から、この夏から逃げているのではないか。彼女と私はこの夏から逃避しているのではないか。

「雲、すごいね」

「すごい。夏本番って感じだね」

立ち眩みそうなほどの入道雲の迫力と彼女の声は、私になにかの幻想を見ているように感じさせた。彼女が窓に目をやった。長いまつ毛が影った。あまりにも綺麗で、私はもう泣きそうだ。どこかもっと遠い夏にも彼女の気配がして、ずっと私のことを知っていてくれてるような存在に彼女を感じた。バスの揺れ、彼女の横顔、割れんばかりの蝉の声、これ以上ない程の青空、迫り来る入道雲。この夏に私の全てを置き去りにしたい、彼女とこの夏に消えてしまいたい、とそう思った。

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