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「あ! このキーリング可愛い!」
華奢な体型で、ベージュブラウンの髪を顎先で切り揃えた可愛らしい女性が、ブースの前で製品を眺めながら声を上げ、優子は我に返る。
「…………何だ? 瑠衣、また欲しい物が見つかったのか? まったく……お前は欲張りな奴だな」
女性の後に続き、緩やかな癖の掛かった、長めの髪の男性が、眼光鋭い眼差しで彼女を見下ろしている。
「だって、先生とお揃いの物って、結婚指輪以外に持ってないでしょ? キーリングなら常に持ち歩くし、肌身離さず持てるし。それに、先生と結婚して三年過ぎたでしょ?」
瑠衣と呼ばれた女性が微笑むと、唇の右横にあるホクロが優艶に動いた。
「…………瑠衣。マルシェでの買い物は、これで終わりだからな?」
(え? この男性のお客様…………今……瑠衣……って…………言った……よね?)
優子は、目の前にいる夫婦の客を呆然と見つつ、戸惑いを隠せない。
女性で瑠衣って名前は、そんなに多くいるわけではないだろう、と彼女は考える。
「いらっしゃいませ。どうぞご覧下さい」
優子はニコリと営業用のスマイルを見せると、夫婦は寄り添い、キーリングを見つめながら、何色にしようか、と相談している。
もしかしたら……この女性が、拓人の人生で唯一、本気で惚れた女性なのだろうか?
男が生前、俺は瑠衣ちゃんの恋を応援すると決めた、と言っていたのを思い出す。
優子は不意に、天を仰いだ。
快晴の空を、エストスクエアのオフィス棟が貫いているように見える。
このままビルの屋上に行ったら、もしかして、天国にいるだろう拓人に会えるんじゃないか、と錯覚してしまいそうになった。
(人違いかもしれないけど……私のブースに、瑠衣さんって呼ばれた方が、旦那さんと一緒に来てくれたよ。アンタの唯一好きになった女性は……幸せだと思うよ……)
優子は、仲睦まじいカップルに眼差しを向けながら、微笑みを覗かせた。
「すみません。このキーリングを下さい」
女性が選んだのは、レザーラベルがブラックとモーヴピンクのキーリングだった。
「お買い上げ、ありがとうございます。合計で三八〇〇円になります」
男性が、財布を取り出し、千円札を四枚、優子に差し出した。
「四千円お預かりします…………二百円のお返しになります。少々お待ち下さい」
優子が小ぶりな金庫に札をしまい、お釣りを取り出して男性に手渡す。
「ありがとうございました」
透明の小袋に二つのキーリングと、オンラインショップのURLを記載した名刺サイズのカードを入れ、会釈をしながら女性に差し出す。
「わぁ……シンプルだけど可愛い! 先生、ありがとう! すごい嬉しいっ!」
「…………瑠衣。お前……いい加減、先生呼びはやめてくれって言っただろ……」
長い前髪を掻き上げながら、男性は盛大にため息をつくと、女性はペロっと小さく舌を出した。