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実家に来て嫁を義母に押し付けておきながら、自分の部屋でSNSチェックして返信してるってわけよね。ほんとクズっぷりがたまらないわ。
涼二のDMを今すぐ見たい気持ちに駆られたが、ここで見つかっちゃいけない。スマートフォンの通知音は切っておいた。
彼に見つからず、秘密裏に行動しなきゃいけない。
今は耐える時。
証拠を集め、確実に涼二を仕留めに行くの――
※
義理実家で昼食をご馳走になった。夫婦ふたりでゆっくり過ごしなさい、と珍しく義母は解放してくれたので家に帰れることになった。反抗しなかったから、マタハラの撮れ高はあまりよくないように感じる。
「涼二、せっかくだからどこかに行く?」
行く気はないが一応声かけておいた。今はまだ、涼二が好きで従順な妻のフリをしておかなきゃ。めんどうだし、やりたくないけど。
女優にでもなった気分でいようと思った。監督は私、主演は浮気夫だけど、サレ妻沙耶としての役割がある。それを放棄したらこの脚本は完成しない。
演技でいいなら、いくらでも、どんなことでもできる気がした。
「あー……今日は別々でもいいかな? 美容院に行きたいんだ。最近行けてなかったから」
「そっか。じゃ、私は買い物して帰ろうかな。夕飯までには戻る?」
「いや。遅くなると思う。せっかく休みだから、友達と飲んでくるよ」
「わかった」
友達じゃなくて理咲でしょ。
「沙耶とはまた改めて出かけよう。なにか考えるよ」
笑顔と優しさを忘れないところがムカつく。
「ねえ涼二」
「なに?」
「最近、友達が旦那に浮気されて離婚したのよ。私……涼二がモテるから心配で。最近キスもしてくれなくなったし……」
うつむき加減で声を押さえて言った。「自分に魅力がなくなったのかなって、すごく心配なの」
「なに言ってんだよ。僕は沙耶ひとすじ! 君はいつだって魅力的だから」
ぎゅっと抱きしめられた。私もその背中を抱き返す。
息を吸って吐くくらい自然に心にもないことを言う涼二をの背中を、そのまま刃物で一突きにしてやりたい。めっためたの、再起不能になるまで。
でも、我慢。
笑顔で嘘をつくクズ夫は、社会的に抹殺するくらいしなきゃ。それこそ立ち直れないくらい成敗するの。
せいぜい油断していなさい。私があなたの背後から一突きにして、地獄へ堕としてあげるから。
「よかった。でもね涼二。浮気したら離婚だから。破ったら、即! 離婚!! だからね。慰謝料も払ってもらうわよ?」
語尾を強くして言った。ぜったいに言い逃れはさせないために。
これ、録音してるからね。
「するわけないよ。沙耶がいるのに」
「でも、心変わりすることだってあるでしょ。もし浮気したら慰謝料払って離婚してもらうから。ちゃんと誓って!」
「わかったよ。沙耶の言う通りにする。でも、僕がそんなことするように見える?」
彼は私を宥めるための嘘を言っているだけ、ということはわかっている。
これも証拠になるかな?
私ひとすじだと言っておきながら、他の女と浮気して、騙されて精神的苦痛を受けたと訴えられるかな――夫に抱きしめられながら、そんなことを考えた。
「だよね。涼二はちゃんと家に帰ってきてくれるし、私のこと考えてくれるし、友だちのこと聞いたら不安になっちゃって……心配性でごめん」
「そういうところがかわいいんだよ、沙耶は」
前まではそんな風に言われると心がふわふわして嬉しかった。涼二のためならなんでもできる、この人に一生尽くしてついていこうと思っていたのに。
「明日は一緒にご飯食べられる?」
「そうだな。沙耶と一緒に過ごしたいな」
「じゃあ、デパートでなにかおいしい食材買って帰るね」
そう言って私たちは別れた。駅の方に消えていく涼二の背中を見送り、デパートで買い物をしてから私は天魔に電話した。
「今から会える? エンビルに行ってもいい?」
『もちろんだ』
早速エンビルに向かった。道中で涼二から届いたメッセージを見た。
《送信のお相手間違えていませんか? 僕はあなたの書かれている方とは違います》となっていた。
涼二からメッセージが届いたのには、からくりがある。実は昨日、奥の手を使った。
最初に天魔が『間違いDMを送ればいい』と言っていたので、それを遂行した。時間をかけてアカウントに投稿を増やしたので、いよいよこちらが手を打った。
第一歩、成功ね。食いついてくれたから、後はどう調理していくか、天魔に相談しよう。
やがてエンビルが見えたので、迷わず地下に入った。扉を開けると目の前のカウンターに天魔が立っていた。
「すごい荷物だな」彼は私が両手に持っている食材の袋を見て驚いていた。
「デパートでおいしい食材買って帰るって旦那に言ったから、その通りにしたの。有言実行、完璧にアリバイは作っておかなきゃね」
旦那のカードで買い物したから、彼のスマートフォンに通知が行っているはず。これで『涼二と別れてすぐ買い物をした』という証拠は作った。
万が一、彼が早く自宅へ戻っても、『駅前で偶然友達に会って話していた』と言えばいい。どうせ美容院へ行ったその足で理咲のところに行くんでしょうから、夫が家に帰るとは思えないけど。
「賢い女だな」感心したように言われた。
「こう見えてもIT技術者なの。お給料もいいのよ。だから夫にATM家政婦扱いされてるってわけ」
「いい女をみすみす捨てて敵に回すなんて、バカな旦那だ」
天魔がせせら笑った。
「お昼、なにか食べた?」
「いやまだ」
「ステーキあるけど食べる?」
「作ってくれるの?」
「キッチン借りてもいいかしら」
「どうぞ」
別に自分の財布から現金で買ったお肉を取り出し、レシートはエンビルのゴミ箱に投下した。これで証拠隠滅。
私はぜったいにしくじらない。
涼二を破滅させるまでは、気を許して油断したりしない。
これはソフトウェア開発をしている時によく似ている。ひとつ間違えば、全体の仕上がりに響いてくる。
その小さな綻びが、完成した時にバグとなってしまう。そうなれば、どこでしくじってしまったのかを見つけるのが至難。
だから最初から完璧に、周到に、組み立てなきゃいけない。
プログラムにミスは許されない。
脚本もそう。私のシナリオは完璧でなくてはならないの。
コメント
1件
第4話読んだよ〜!!😭💕 沙耶さん、完璧に夫を欺く演技派宣言きたね…「監督は私、主演は浮気夫」のくだりがもう痺れるほどかっこよすぎて鳥肌立ったよ…!!! 涼二に背後から抱きしめられながら「一突きにしてやりたい」って思ってるところ、二面性の表現がエモすぎる…対比が刺さる😢 しかもDM罠にまんまと食いつく涼二、そろそろ地獄の始まりだね…! ソフトウェア開発に例えて「プログラムにミスは許されない」って言い切る信念、沙耶さんかっこよすぎるよ…続きが待ちきれない!!🔥