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カナリアお姉様達を逃すために翡翠城を駆け抜けて、邪魔をレイミと一緒に障害を排除していく過程で今最も会いたくない人物が立ち塞がりました。マリア、よりによってこんな時にっ!
この翡翠城で唯一私達姉妹と真正面から戦えるのはマリアくらいのものでしょう。しかし、こんな場所で悠長に時間を浪費する余裕はありません。マクベスさんやリナさん達にも限度がありますし、貴族の中に紛れ込んでいるネズミもいつ暴発するか分かりません!
「レイミ、予備のルートを使ってお姉様達を。このお馬鹿の相手は私がします」
少し遠回りになりますが、仕方ありません。
「分かりました!皆さんこちらへ!お姉さま、また後程」
「ええ、また後で」
事前にある程度打ち合わせはしていましたし、最優先はカナリアお姉様とジョゼの安全です。レイミが居れば問題はありません。
「ここは私が引き受けます。皆さんはあちらを」
マリアの言葉を聞いて近衛兵達も立ち去りました。聖光教会の聖女の権限は近衛兵すら動かしますか。厄介な。
「そこを退いてくれませんか?マリア。貴女が視界に入り込むだけでも殺意を抑えるのが大変なのに、真正面から対峙する私の身にもなって貰いたいものです」
どうせなら皇帝陛下の治療でもしてくれれば、フェルーシアの計画を邪魔できたのに。いや、違う。だからフェルーシアはマリアを差し向けたのか。
フロウベル侯爵令嬢であり聖光教会の聖女であるマリアなら、調べようと思えば裏側を調べるのも容易いでしょう。まして彼女は魔王として魔物達を率いていますからね。
「そうはいかないのよ、シャーリィ。皇帝陛下に毒を盛るなんて蛮行を見過ごすことは出来ないわ」
「嗤えますね、マリア。こんな茶番を本気で信じているのですか?」
「逃げるのはやましいことがあるからじゃないかしら?無いなら身の潔白を堂々と主張するべきよ」
「ハッ!おめでたい程お馬鹿さんですね、貴女は!身の潔白を主張?身柄を抑えられたら、そこで終わりなのですよ!レンゲン公爵家に帝室を敵に回すメリットがあると本気で考えているのですか!」
ハッキリ言って皆無です。非公式とは言え、レンゲン公爵家はユーシスお兄様の後ろ楯ではありますが、お兄様は身内で争うことを是としていません。だからこそ一歩引いているのですよ。
それ故に帝位継承争いにも西部閥はほとんど関与していないのです。莫大な資金を要する帝都の政争に関わらず、その経費を使って西部の近代化を推し進める道を選んだのですから。
「私は人の正義を信じるだけよ。政争には興味もないけど、今この場を引っ掻き回しているのはレンゲン公爵よ!」
嗚呼、嗚呼!本当にマリアは!この女は!
『殺せ!殺せ!!殺せ!!!』
本当に……私をイラつかせる天才ですねっ!!
「問答は無用みたいですね。マリア、先程も言いましたがもう一度だけ言います。今すぐに私の視界から消えてください。殺したくなるではありませんか」
「お断りするわ。ちょうど良いから、貴女のその曲がった性根を叩き直してあげる」
……もう良いや。の顔が笑顔になっていくのを自覚しながら、私は勇者様の剣をしっかりと両手で握りしめました。対するマリアもまるで、天秤のような剣を抜き放ちました。あれは確か、聖光教会の聖剣でしたか。
「ちょっと痛い思いをして貰うわよ、シャーリィ!」
「生温いことを言わないでくださいな、マリア。貴女は私の敵です。だから……この場でぶっ殺してあげますよ、魔王!輝けぇっっ!!!」
目映い光と共に勇者様の剣から光輝く刃が出現しました。
「今度こそ調伏してあげるわよ、勇者ぁあっ!!!!」
対するマリアの聖剣の刃がどす黒く染まりました。闇の魔法、魔王の力!相手にとって不足はありませんっ!!!
「「ぁああああああっっっ!!!!」」
互いに身体強化魔法で急接近し、力一杯振り上げた刃はマリアの振り下ろされた刃と交差し。
「「「うわぁあああっっ!!???」」」
両者の激突によって凄まじい衝撃波が発生し、遠巻きにしていた蒼光騎士団の団員数名を吹き飛ばしてしまう。
「聖女様……!」
ラインハルトは両者の衝突に目を見開いた。突き、切り払い、振り上げ、振り降ろす。両者の刃が交差する度に凄まじい衝撃波が発生し、周囲を破壊していく。
「サンダーレイ!!!」
埒が明かぬとシャーリィがマリアを蹴飛ばして数少ない放出魔法を放つと。
「ロックウォールッ!!」
マリアが右手を掲げると床から岩石の壁が突き出て電流を無力化し。
「お返しよ!ロックランス!!」
更に地面から突き出た鋭い岩の槍がシャーリィを強襲するが、彼女は咄嗟にいつも身に付けている飛空石に魔力を流して飛翔。
「飛んだ!?」
さすがにこれは予想外でマリアも驚愕。その一瞬の隙を逃すシャーリィではなかった。勇者の剣を背後に向けて。
「ウィンド!!!」
柄から発生した突風がシャーリィに莫大な運動エネルギーを与えて加速。
「ぁああああああっっっ!!!」
「うぐぅうっ!!??」
その勢いそのままにマリアへ体当たりを敢行。両者は轟音と共に壁を突き破り、姿を消す。
「聖女様!」
直ぐ様ラインハルトが駆け付けようとするが、次の瞬間穴からシャーリィが飛び出て反対側の壁に叩き付けられた。
ガラガラと瓦礫を崩しながら現れたマリアは右手の平をシャーリィに向けており、壁に叩き付けられたシャーリィもゆっくりと立ち上がる。
「痛いではないですか。しかも、エーリカが仕立ててくれたドレスがボロボロになりましたよ」
額から流れる血を袖で拭いながらシャーリィが忌々しげにマリアを睨み付け。
「それはこっちの台詞よ、帝城の壁をぶち抜くなんて何を考えているのかしら。いくらなんでも非常識なんじゃない?」
同じく頭部からの出血をシスター帽で拭い投げ捨てたマリアが不敵な笑みを浮かべる。
「何の問題もありませんね」
「帝国貴族にあるまじき言葉ね」
「ハッ!自分だって興味はないくせに」
「ふん……まだやるつもり?これ以上はもう少し手荒になるわよ」
マリアの挑発にシャーリィも不敵な笑みを浮かべる。
「冗談はその肩書きだけにしてください。それに……」
シャーリィの勇者の剣を持っていない左手が帯電する。『魔石』を通じてしか魔法を使えない彼女からすれば異例のことである。
「実戦こそ最高の教師、お母様やマスターの教えは正しかったみたいですね。貴女……いや、魔王への勇者様の恨みが私を新たな高みへと導いてくれるみたいですよ?」
「上等よ」
勇者の証である雷魔法を目の当たりにしながらも、マリアは退かない。両者の戦いは探り合いを経て、本格的な衝突へと発展していく。