テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


……あやつって、仮にも、守満《もりみつ》様は、少将なんですけど……と、崇高《むねたか》に、言い返したい常春《つねはる》だったが、野次馬の目がある。これ以上、下手な騒ぎを起こすと、大納言家の面目が……などなど、結局、屋敷仕えの癖がここでも、邪魔をして、えーと、と、口を濁すことしかできない。


とはいえ、残念なことに、そんな常春の、葛藤など、誰も気に止めていなかった。


皆は、立ち往生している牛車《くるま》に、興味津々で、何処の姫君か、などと、詮索している始末だった。


そんな、わいわい騒ぐ野次馬の、収集がつかない所へ、モオーと、何か、聞き覚えのあるような無いような、とにかく、ばかでかい、牛の鳴き声がして、ドドドと、地響きがする。


「ありゃ、若、ではないか!」


髭モジャが、叫んだ。


その叫び通り、なんとなく、ご機嫌に見える、牛──、若が、引く、車が勢いよくやって来る。


「……そんなに、髭モジャ殿と、会えたのが嬉しいのか……」


常春も、唖然としつつ、しかし、その横で、守満が言った。


「なあ、常春、若、ということは、あの車は、父上がお乗りということではないか?」


「あっ!確かに、そうです!あの車は!」


二人は、顔を見合わせた。


つまり、守近は、出仕事で禁中へ上がり、そして、例のゴタゴタをまとめて来た、と、いうことなのだ。


「……なあ、常春。早すぎないか?」


「ですね。あれだけの事を、どう、収めてこられたのでしょう?」


不思議を通り越し、不審に思う二人の前に、牛車が、止まった。


「おお、髭モジャか、あー、若を、なんとかしておくれ、目が回りそうだよ」


車の乗り口、後ろ簾の隅から、守近が、ひょっこり顔を覗かせる。


「あ、ありゃ、いや、これは、また、守近様、若が、申し訳ありませんで!!」


慌てて膝をつく、髭モジャに、


「いや、構わんのだけどね、牛飼いが、ほれ、必死に走って来ておるのだけど?若は、髭モジャや、お前にどうしてそこまで、懐いておるのかねぇ?」


守近は、少しばかり、息を荒くしながら、問うていた。


若が、いきなり走り始め、いわば、暴走してしまった車の揺れに、守近は、参っていた。そして、その勢いに、ついてこれず、傍で牛の様子を見守る、牛飼い達が、後方に取り残され、追いかけて来ているのだった。


「若や、車は、乗る方の安全をまず考えて引かねばならぬ。ワシを見つけたからと言って、喜んではいかんのだ。どのような時でも、お役目を忘れてはならぬぞ」


髭モジャは、若へ歩み寄ると、牛の心得を説教した。


若は、言われていることがわかるのか、頭をさげて、しゅんとしている。


「しかし、以心伝心過ぎるのではないか?」


「私も、そう思います。守満様」


呆けている二人へ、守近から、声がかかった。


「おや、どこかで見たことのある、おのこ、じゃないか。して、これは?」


場の有りように、守近は、首をかしげている。


「あっ、これは、父上、こちらの牛車の具合が悪くなり、進めなくなったのです」


守満から、説明を受けて、ふーんと、どこか、気のない返事をした、守近は、


「で、お前はどうするつもりだ?」


「そんなの簡単じゃないですか。車を交換すればよいだけですよ。はい、守近様、降りてください。そして、あちらの車にお乗りの方々をお乗せしてさせあげれば、済むだけでしょ?こんな所で、車が二台も、止まっていたら、通行の妨げになりますよー!」


守満に、変わり、なぜか紗奈《さな》が、答えていた。後ろには、おばあちゃん達を引き連れて。


「おお、紗奈姉《さなねぇ》様のお言い付けとあらば、聞かねばならまいて」


守近は、追いついて来た、牛飼い達へ、指示をだす。


そして、


「守満や、彼方の姫君へ、お伺いをたてなさい」


と、どこか、意味深に言った。


突然現れた、紗奈の考えに守満は、なるほどと、思いつつ、父に命じられるまま、相手方の車へ向かっていく。


「さて、どうなりますかねぇ」


守近は、息子の後ろ姿を見守りながら、後ろ簾の影で、小さく笑った。

羽林家(うりんけ)の姫君~謎解き時々恋の話~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

16

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚