テラーノベル
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懐中電灯の光は、一人ずつ顔をなぞるように揺れた。
――一、二、三、四。
低く、かすれた声が、確かに聞こえた。
阿部の指先がわずかに震える。
佐久間は息を呑んだまま動けない。
その“警備員”は、ゆっくりと一歩、こちらへ踏み出した。
コツ。
だが、その足音は――
階段を踏んでいない。
空中に足を置いているような、不自然な高さだった。
阿部)……数、合ってない。
ぽつりと呟く。
佐久間)え?
阿部)さっき……俺たち、三人だったよな。
その瞬間。
懐中電灯の光が、阿部の肩の“後ろ”で止まった。
――五。
誰もいないはずの場所を、
確かに“見て”、数えた。
佐久間の喉がひゅっと鳴る。
佐久間)……ねえ、今……後ろ……
振り向こうとした瞬間、阿部が強く腕を掴んだ。
阿部)見るな。
その声は、今までで一番低かった。
だが、遅かった。
視界の端で、何かが動いた。
“いる”。
すぐ後ろに。
息が、かかる距離に。
なのに――
気配が、遅れてやってくる。
——ピロン。
またスマホが鳴った。
今度の画面には、ただ一行。
「数えるのをやめるな」
その下に、小さく。
「やめたら、代わりになる」
佐久間の手が震えながら、無意識に口を動かす。
佐久間)……いち、に、さん……
阿部)やめろ!!
叫びと同時に、非常灯がすべて消えた。
闇。
完全な、音のない闇。
だが――
コツ、コツ、コツ。
さっきまで遠かった足音が、
すぐ“隣”から聞こえる。
そして、あの声。
――六。
阿部の呼吸が荒くなる。
阿部)……一人、増えてる。
そのとき。
暗闇の中で、誰かが数えるのをやめた。
一瞬の静寂。
次の瞬間。
――ガンッ!!!
何かが床に叩きつけられる音。
同時に、懐中電灯が再び点いた。
そこに立っていた“警備員”の顔は、
さっきより、少しだけはっきりしていた。
そして、その目は――
今しがた倒れた“誰か”ではなく、
残った全員を見ていた。
ゆっくりと、口が動く。
――七。
プレートの文字が、ぎし、と軋む。
「3.5F 点検中」
その“点検”の意味を、
誰も、もう聞こうとはしなかった
コメント
2件
もうどこまでも怖すぎて泣き出しそう🫠🫠ホラー書けないから尊敬する、、