テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
なんとも言葉にし難い空気が漂っている。コニー嬢から語られた、これから『とまり木』に降りかかるかもしれない面倒ごと。店の存続に関わるような大事でないとはいえ、責任者であるレオン殿下を始めとした従業員の殆どが不在であるいま、どのように対処するのがベストなのか頭を悩ませるところである。
「そもそもの話なんだけど、俺オレリー嬢がどんな子なのかいまいちピンときてない。常連だって自分で言うくらいなんだから、それなりの回数店に来てるってことだろ? 見た目の特徴聞いたら思い出すかな」
「興味が無いことに関してのルーイ様の記憶力はあんまりあてになりませんから……クライヴさんはどうですか?」
「ユニレーム商会は知っておりますが、そこの娘についての情報はあまり……お役に立てず申し訳ありません」
「クライヴさんは店にいる頻度も私たちより少ないですもの。会ってすらいないかもしれませんよ」
私を含めて皆、オレリー嬢がどのような人物なのか分からないみたいだ。そんな私たちを見かねてコニー嬢が特徴を教えてくれたが、それを聞いた上でもこれだという人物が思い浮かばなかった。
「髪はラリーさんよりも灰色寄りの黒のロングで、瞳も同系統の黒色。体型は細身で少しキツめの印象を受ける顔と口調なんですけど……」
「……ごめんね、コニーさん。それだと該当者がそこそこいそうだから絞れないや」
「従業員と親しいとも言ってましたよね。今この場にいない隊員たちの中に懇意にしている者がいたのでしょうか」
「それなら尚更俺たちの間で話題にくらい上がってたと思うけどなぁ。親しいってのは、そのオレリー嬢がちょっと盛ったのかもしれないね」
「可能性は充分あると思います。彼女は結構見栄っ張りな性格みたいですので……」
ルーイ先生とクライヴさんはどうしたものかと頭を悩ませている。殿下やセドリックさんがいないのは本当にタイミングが悪い。
「まあ、なんにせよだ。向こうからのアクションが無いことには、どうすることも出来ないからね。コニーさんの心配が杞憂に終わる可能性だってあるわけだしさ。案外オレリー嬢本人もビックマウスかましたことに後悔してるかもしれないよ」
「そうだといいのですが……」
田舎から出てきた従姉妹の前でいい格好をしたくて、つい大口を叩いてしまったということか。常連というのも誇張されていると考えれば、私たちが覚えていなくても不思議ではない
「俺たちは何事もなければそれでいいから……でも、オレリー嬢のことは念のため頭の隅に入れておくよ。コニーさん、わざわざ知らせに来てくれてありがとうね」
先生はコニー嬢にお礼を伝えると、にっこりと微笑んだ。出た、先生の素敵笑顔。私はこれまで幾度もコレで撃沈する人間を目の当たりにしてきた。彼の笑顔は老若男女問わず、あらゆる者を魅了するのだ。きっとコニー嬢も例に漏れず……
「いえ、元はと言えば私の発言が原因ですから。突然お邪魔したにも関わらず……話を聞いて下さって、こちらこそありがとうございました」
「今度はちゃんとお客さんとして来てくれると嬉しいな。貸切には出来ないけど、席の予約なら受け付けますので、お気軽にお申し付け下さい」
「はいっ!! 是非」
普通である。あまりにも。こんな至近距離で先生に微笑まれたというのに、コニー嬢は取り乱すどころか冷静に対応している。クレハ……いや、ラリーさんの笑顔にはちょっと動揺していた風だったのに。コニー嬢はイケメンよりも美少女に弱いのだろうか。
私がコニー嬢の予想外な反応に対して考察を繰り広げていた矢先のことである。コンコンという乾いた音が再び店内に鳴り響いたのだ。
「……私が出ます。皆さん、その場から動かないで。コニー嬢は念のため奥の部屋に行って身を隠していて下さい」
「は、はいっ……」
「これってもしかして、ユニレーム商会の娘さん? マジで来ちゃった!?」
誰かが扉をノックしている。断続的に行われるそれは、コニー嬢が訪れた時と同じだった。店の人間が出てくるまでやめるものかという意思を感じる。
クライヴさんは椅子から立ち上がると、扉の方へと向かった。果たしてコニー嬢の心配が現実のものになってしまったのか。ユニレーム商会の娘が、店を貸切にして欲しいと交渉に来たのかどうか……私たちは固唾を飲んでクライヴさんの動向を見守った。ゆっくりと扉が開かれる――――
「外の看板が見えなかったのですか。店はしばらくの間、休業です」
クライヴさんは苛立ちを滲ませた声で訪問者へ言い放つ。私たちが今いる位置からはクライヴさんの背中に遮られてしまい、相手の姿はよく見えない。左右に体の位置をずらしながらなんとか見ようと試みていると、訪問者がクライヴさんの言葉に返事を返した。
「人の気配がしていたので、誰かいるだろうと思いまして……当たりだったみたいですね」
#一次創作
なべたろう🩵🐧推し
178
1,629
もな
68
訪問者はクライヴさんの横からひょっこりと顔を覗かせた。あっけなくその姿が露わになる。
「4人か……休業日というわりには結構な人数がいるじゃないですか」
訪問者は少女ではなく若い男性だ。どうやら彼も店が休みであることは承知の上でノックを繰り返していたようだ。店内から漂う人の気配を察知して強引に対応させた。ここもコニー嬢と同じである。しかしだ。この男性の口調……休業中の店の従業員を無理やり引きずり出したことに対する罪悪感は微塵も無さそうだ。ふてぶてしいとでもいうのだろうか。そこはコニー嬢との大きな違いである。クライヴさんも早々にそれを感じ取っているようで、相変わらず素気無い対応を続けている。
「それで、おたくは何をしにこられたのですか?」
「ああ、失礼。自己紹介がまだでした。私、サイラスと申します。ユニレーム商会からの使いでこちらにお邪魔したのです」
ユニレーム商会……その名前が出た瞬間。私たちはきっと同じことを考えたはずだ。
ほんとに来たよ……と。