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イルミネーション当日……
もう外はコートがないとろくに歩けなくなっていた。痛いほどの冷たい風が頬を吹きつけている。まだ12月が始まったばかりなのにだ。
八尾は待ち合わせ場所で美華を待っていた。
美華とイルミネーションを見て、最高の思い出にする。
それが八尾の目的だった。
「寒いなぁ…コーヒーでも買うか…。」
と、八尾は思い財布を取りだした。
自動販売機の光がやけに明るく見える。
コーヒーのボタンを押すと、ガコンガコン!という音とともにホットコーヒーの缶が落ちてくる。
缶を取り出し、プルタブをおこす。
そしてコーヒーを飲む。ほんのりと苦い。
だが、寒いところで飲むコーヒーは最高だ。
しばらくコーヒーを飲みながら美華を待った。
しかし、いつになっても美華は来ない。
おかしい。そう思い美華のLINEに連絡を入れてみた。が、返信はこない。
行けなくなったのならそう連絡くらいくれよ。そう八尾は思った。
人の並が公園に押し寄せていく。
もうイルミネーションは始まっている。
美華はまだ来ない。八尾は心配になり、美華を迎えに行くことにした。
横断歩道を渡り、大通りに出る。ここは片側二車線のとても大きい道路だ。
街路樹が並んでいる歩道を小走りに歩く。
人通りが多いため、少しずつしか進めない。
当たり前だ。皆イルミネーションを見に行っているのだ。
走った、とにかく八尾は走った。
美華が心配でとにかく走った。
その時、突然八尾の携帯が鳴った。
プルルルルル……
八尾は行けなくなったことの報告か?と思った。
なぜならその番号は美華の携帯の番号だったからだ。
八尾は電話に出た。
「もしもし?」
聞こえてきた声は、美華ではなかった。
「あ、八尾君よね?美華がいつもお世話になってたわね……」
なってた?何故過去形なんだ? 八尾は疑問に思った。
「八尾君…落ち着いて聞いてね…美華が……」
八尾は電話に精神を集中させていた。
「ついさっき……亡くなったの……」
八尾は突然のことに我が耳を疑った。
「え?……美華が…………?」
美華の母は泣きながらこう言った。
「行きつけの医者に来てもらったときには…もう……」
どうやら行きつけの医者は美華の家から3分ほどで着くらしい。
確かに美華の家に行った時、《橘医院》と書いてあった。それなりに大きい建物だった記憶がある。
「そんな…だって昨日まで…あんなに元気だったんですよ?!」
八尾は今起こっている事が信じられなかった。
「急性心筋梗塞だったみたいなの…あの子生まれつき心臓弱かったから…というのも、診断が難しい未知の病だったから…どうすることも出来なくて……」
八尾は携帯を握りしめたまま、歩道で膝から崩れ落ちた。
そして、小さな嗚咽をもらした。
八尾はぐっと耐えようとするが、後から後から嗚咽が止まらなかった。
ついに八尾は大きな声を上げて泣き出した。
周りの人達はギョッとした目で八尾を見る。
心配そうに寄ってくる人もいる。面白がって写真や動画を撮るク●もいる。が、八尾は周りが見えていなかった。八尾の心にあったのは、後悔と悲しみの念だけだった。
もっと一緒にいたかった。もっと一緒に笑いたかった。もっと思い出を作りたかった。
後から後から八尾の目からは大粒の涙がこぼれた。
その涙は、美華を本気で心から愛していた証拠だった。
八尾はその後どうしたのかあまり覚えていなかった。
だが、これだけは覚えていた。
美華の母に見せてもらった、美華のLINEのメッセージ欄には、返信されていないメッセージが書かれていた。
その内容は………こうだった。
《ごめんね》