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──ああ、あついなと思った。
つい最近の猛暑日でも、気温が37℃になろうとも、ここまで暑くはなかったはずだ。人間の肌って熱いんだなとぼんやり考える。背中に更なる熱を感じて私は身をよじった。
肌の触れるその先に彼がいる。生身の人間がそこで私と同じように暑さにうだっている。不思議な感じがした。
私達はこんな夜を迎えてはいけなかった。
熱でぐらつく頭で精一杯の後悔に浸っている。無駄だ、何もかも一切がっさいが。私自身が、無駄だ。
ふと彼が腕を引く。私は振り向かない。目を開けてじっくり見つめ合うなんて嫌だから。熱気の向こうでどんな表情をしているかなんて知りたくはなかったから。
男って、誰とでも、こういうことができちゃんうだね。彼女じゃなくても。
ふと彼女のあどけない笑顔がよぎった。私達のしたことを知ったら、あの子はどんな表情をするんだろう。女の子らしさを凝縮したような、なんのためらいもなくAラインのワンピースを着て髪をゆるく巻くようなあの子が。怒りで我を忘れたりするんだろうか。
酔っていた。酔っていたから仕方なかった。好きでもない日本酒を何合もあおって、いつもみたいに肘で小突きあって、軽口を叩いて、そしていつの間にか私達は抱き合っていた。
こんなに熱いのはお酒のせい。吐きそうなのも、泣きそうなのも、全部全部お酒のせいだ。瞳が濡れているのも。
こんなもの、絶対に恋なんかじゃない──。
「お前、本当は甘い酒が好きだろ」
寝入り端に彼が囁く。何もかもお見通しだともでも言いたげに。
「男前気取ってるくせに、意外とそういうとこあるよな」
秘密を詳らかにしてやったと言わんばかりに声を弾ませる彼に、私は背を向けたまま応えた。
「そんなの、どうでもいいじゃん」
本当は、甘いお酒が好きでも。
ぐらつく精神を必死に保って、今は大人の振りをしていたい。お前なんかに、何もかも差し出してたまるもんか。愚かさや浅はかさを許されたような気になって、慰めの優しさで薄められたくなんかなかった。
「どんな味だろうが、酒は酒だよ」
どんなに惨めでも、私は私だよ。
──どんなに深い酩酊の底にいても。