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「私にこんなことをして、タダで済むと思うな!」
「王の書記官風情が、何様のつもりだ!」
王都では、レピダスの逮捕を皮切りに、
反乱へ関与した者たちの摘発が連日のように続いていた。
屋敷は次々と家宅捜索を受け、貴族や元老院議員が縄を打たれて連行される。
そしてついに、
ジュリアス最大の政敵として知られたポンペイ家の子息までもが逮捕された。
その報は瞬く間に王都中を駆け巡り、人々は騒然となる。
「まさか、ポンペイ家まで……。」
「これで終わりではないぞ。」
「次は誰が捕まるんだ……。」
「人払いをしてくれ。」
捕らえられた小ポンペイは、マエクスへ静かに言った。
マエナスは控えていた役人たちをすべて退出させる。
「君はライナー王の盾だそうだな。」
「公職にも就かず、書記官に甘んじている。」
「金が好きだという噂も聞く。」
小ポンペイは口元をゆがめた。
「そこでどうだ。」
「アントンがイージプで手に入れた財宝は莫大だ。」
「こちらについた方が得策ではないか。」
「いま王都を失えばライナーは敗れる。」
「つまり、世界の命運はいま君の手にある。」
「私がアントンに取りなそう。」
「望むなら、イージプ属州総督の椅子も夢ではない。」
マエクスはしばらく黙っていた。
「……実は私は、戯曲家になりたかったのですよ。」
「は?」
「アグリが建築家になりたかったのと同じようなものです。」
「ですが、ライナー王に『才能がない』とはっきり言われましてね。」
「……何の話だ。」
「腹が立ちまして。」
「だから今は、才能のある若者を育てています。」
「そのために金が要るんです」
小ポンペイは眉をひそめた。
「私はこのグランを、世界一の文化国家にするつもりです。」
「イスカンダルなど、比較にもならないほどの。」
「……。」
「あなたの親分には無理ですよ。」
マエナスは穏やかに笑った。
「人を見る目がありませんから。」
ライナー陣営は、ポンペイらによる反乱を未然に防いだことを公表した。
さらに、この陰謀の黒幕はイージプ王国であると断定し、王都中へ布告を出す。
「アントンは、もはやグラン王国の将ではない。」
「イージプ女王の下僕となり、異国の軍勢を率いて祖国へ刃を向ける逆臣である。」
王都の広場では布告が読み上げられ、人々は息をのんだ。
「祖国を売った男。」
「異国の王冠のために戦う裏切り者。」
そんな噂は瞬く間に街から街へ広がり、やがて属州にまで届いていく。
ライナー陣営は、この戦を単なる内乱ではなく、
祖国を守るための戦いとして民衆へ印象づけることに成功した。
アントンは、南方の海にアグリ艦隊が姿を現し、
カニデスが包囲殲滅の行動を開始したとの報告を受けると、
満足そうにうなずいた。
「すべて予定通りだ。」
アグリ艦隊は巧みに距離を保ちながら、南の海を縫うように航行する。
「おのれ、ちょこまかと逃げおって!」
カニデスは敵を包囲すべく陸上の部隊へ幾度も移動と配置の転換を命じた。
だが、そのたびにアグリは裏をかき、包囲が完成する寸前で海へと抜け出していく。
「騎兵をだせ!」
「いや、南へ逃げたぞ! 追え!」
数刻にわたり、アグリは敵を翻弄し続けた。
命令が飛び交うたび、包囲陣は崩れ、陸上の軍は疲弊していった。
カニデスは苛立ちを隠せず、拳を握り締める。
「ガイロはまだ到着せんのか!」
やがて――。
百隻を超えるガイロ艦隊が、水平線の彼方からその威容を現した。
巨艦が幾重にも隊列を組み、海を埋め尽くす。
同時に陸では、カニデス率いる大軍が海岸線へ展開を終えていた。
陸も、海も、敵。
アグリ艦隊は文字どおり敵中のど真ん中へ取り残されていた。
その圧倒的な光景を前に、兵たちの表情から笑みが消える。
「将軍……。」
不安げな声が漏れた。
だが、アグリは海図から顔を上げると、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。」
「勝つための算段は、もうついています。」
その一言だけで、艦橋の空気が少しだけ和らぐ。
アグリはゆっくりと前方の大艦隊を見据えた。
「さて……。」
「まずは海から、いきましょう。」
北から陸路を進軍していたライナー本軍は、
スピリタスを先頭に二つの都市を突破し、アンゴラ湾を見下ろす高台へ到達した。
眼下には、アントン軍の本営。
湾内では無数の軍船が入り乱れている。
「南のアグリは、ずいぶん暴れているようだな。」
ライナーが海を眺めながらつぶやく。
「そのようですね。アグリ将軍が敵を引きつけているおかげで
ここまであまり被害なく到達できました」
スピリタスは静かにうなずき、本営の周囲へ視線を移した。
「あの陣地が北に対する防衛ラインでしょう。」
ライナーは大きくうなずいた。
「我々の相手は、アントンだ。」
スピリタスは配下の将兵を見渡し、静かに告げる。
「くれぐれも油断なきよう。」
張り詰めた空気の中、グラン軍は一斉に武器を握り直した。
決戦の幕が、静かに上がろうとしていた。
高台にライナー本軍の軍旗が翻る。
それを認めたアントンは、ゆっくりと立ち上がった。
「ようやく来たか。」
待ちわびていた獲物を迎えるような口調だった。
彼は鎧をまとい、剣を腰に差す。
側近たちも無言のまま後に続いた。
「では、行ってくるとするか。」
穏やかな声とは裏腹に、その瞳には激しい闘志が宿っている。
アントンは選び抜かれた精鋭を率い、本営を後にした。
決着は、もはや避けられなかった。
コメント
1件
第37話、無事に読了したよ〜!✨ 今回も大大大興奮だった…!!特にマエナスが小ポンペイの誘いを、「戯曲家になりたかった」って話で華麗にスルーしながら断るシーン、最高すぎた😭💕「人を見る目がありませんから」って笑顔で言い放つのかっこよすぎる!! あとアグリの「大丈夫ですよ。勝つための算段は、もうついています」の台詞、めっちゃ痺れた…!追い詰められてる状況でのあの余裕、まさに漢の中の漢だよね✨ そしてついに決戦の幕が上がる…次回が待ちきれないよ!🔥