「やっときたな」
「…おそ」
そう言ったのは治と角名だった。ホームルームが終わってから結構経っていたらしく、昇降口でスマホを弄りながらダルそうに待っていた。
「すまん!待たせたな」
「あの先生めっちゃ話長いねん!!」
待たせたことを素直に謝る銀島と対照に先生の愚痴を言う侑。どうやら侑とあの先生は合わないらしく、いつも何かあってはどうこう言っている。私も2人を待たせてしまったことに軽く謝ってはよ行こ。という治の提案に5人はファミレスに足を運んだ。
私と角名は学校まで近く、自転車で登校するため自転車を引いてみんなの足の速さに合わせる。聞くと角名は愛知からバレーのために兵庫まで来たらしく、寮生活を送っているという。
5人でファミレスまでの道を歩く。最近のバレー事情だとか、宮兄弟は巨乳が好きだとか、逆に角名と銀島はどっちでもいいとかなんとか。正直、というかすごくどうでもいい。
そんなことを話しているうちにいつもお世話になっているファミレスに着いた。
いつもより少しだけ混んでいるファミレスに入ると、すぐに席に案内された。目の前に座っている治がすぐにメニュー表に目を通す。
「おいサム、俺ら飯食いに来たんとちゃうぞ」
「そんなん分かっとる」
あの治がメニュー表をテーブルに置くほどの重たい空気が私たちを包む。そうなのである。私たちはこれから───。
テスト勉強をするのである。
「……なんっっっっで合ってへんのや!!!」
『侑やかましいわ』
「なっ、〜〜〜〜〜!!」
数学の問題を解いている途中、我慢の限界だったのか、答えが合わなかったらしい侑が声を上げる。それに冷静につっこむ私に対して何か言いたげだった侑だが、自分が悪かったと理解したらしく怒りを抑えた。
「せやで。人の迷惑考えろや」
「2回も言われんでもわかるわ!!」
が、せっかく抑えた侑の怒りが治の言葉によって爆発する。いつもより少し多い客の目が一気にこちらを見る。おい角名、面白がるな。そしてスマホを構えるな。
「ちょ、まてまて!あれや侑、腹空いてんねん!なんか注文しようや!」
という銀島の仲裁の元、なんとか宮兄弟の喧嘩を止めることができ、喧嘩を止めるためとはいえ勉強をするつもりで来たのにいつの間にか大量の美味しそうな料理がテーブルの上を占めた。もうノートを開く隙間すらない。
そんなとき、ブーという音がスマホから鳴った。見るとインスタグラムからの通知だった。
『…おい角名、ストーリーあげんな』
「気づくのはや」
アプリを開き角名のストーリーを見るとテーブルの上に大量の料理を背景に銀島と侑と治、そして私をメンションしたストーリーが追加されていた。
「おい角名!!このときの俺ブレてるやん!!撮り直せや!!!」
「角名もうあげたん?○○よりもJKやん」
「早いなぁ!!さすが角名や!!」
と次々に反応する。治いらんこと言うな。
それから30分ほど経った。みんな勉強のことを忘れてファミレスに来る途中に話していたことの続きだとか、何組の誰々さんが可愛いだとか。全国に行くレベルの実力を持つ稲荷崎2年組だが、プライベートは普通の高校生だったりする。
「俺トイレ行ってくる」
という角名に対し、俺も行く!と侑が言う。その言葉に角名は嫌そうな顔をしていたが結局2人でトイレに行った。
「なあ○○。自分ツムのこと好きなん?」
『…は??え??』
「○○そうなんか!?!?」
侑と角名がいなくなった瞬間、治に侑のことが好きなのかと聞かれる。高校生のデリケートな問題を真顔でつつかれ、好き嫌いを問わず顔が熱くなってしまうのが自分でも分かる。その反応が好きだということを言っているようで思わず動揺しながら反論してしまう。
『いや、まじでちゃう!!』
「…ふーん。」
と治がニヤニヤしながら表面的に納得した。絶対に信じていない。
─侑・角名side─
「侑って○○のこと好きなの?」
「は、はぁぁぁぁ!?!?」
角名に思ってもいなかったことを聞かれる。なぜか人間というものはこういう時に冷静な対応をとることができないのだ。
「いやいやいや、そんなんとちゃうし!」
「へー」
と角名は理解したような返事をしたが、絶対に信じていないことが表情からわかる。…こいつ面白がっとる。
2人がトイレから帰ってきて、なぜか異様な空気になる。治と角名はニヤニヤしていて、銀島はこれうまいなー!と言いながら残り少ない料理を黙々と食べている。そして侑と私はというと、お互いに目を合わせようとせず何だか気まずい雰囲気。おい角名、隠し撮りしてんの分かっとるで。
『…あー、侑。あれや、…天気ええな』
「お、おー。…せやな」
「「ブフォッ」」
いつもどんな話をしていたのか忘れてしまうくらい頭が混乱して、なぜか天気の話を侑に振ってしまう。挙句、治と角名の今日一の笑い声を聞く羽目になった。それに侑が怒鳴っていたが、今はそれすら頭に入ってこない。
私たちだけなんだか違う空間にいるみたいだ。
コメント
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お、おー。、、、せやな。で爆笑したwwwww 面白いストーリー毎回ありがとうございます!