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第1話:歌えないハネラ

都市は、朝の歌で目を覚ます。


高く、澄んだ旋律が、枝と葉のあいだから響き、空に向かって風を導く。

それに呼応するように、巨大な樹機械がゆっくりと脈動をはじめ、

光を蓄えた葉脈が淡く点滅した。


そのなかに、ただ一羽、歌わないハネラがいた。


彼女の名はシエナ。

羽はミントグリーンの中でも特に淡く、尾羽の先は透けていて、光を受けると虹色に揺れる。

しかしその美しい羽根とは裏腹に、彼女の喉は命令歌を組めない。

音は出る。ただ、それは“命令”として意味を持たない。





シエナの仕事は、都市外縁の光整流区での巡回だ。

彼女は光を反射し、樹機械のセンサーと通信することで、施設のエネルギー配分を管理している。

歌うことができない彼女が社会に存在できるのは、

**光使(ひかりつかい)**という数少ない“非歌職”が認められているからにすぎない。


「……反応良好」


羽を軽く広げ、翼をひねって反射角を調整すると、足元の樹機械から“草の匂い”が立ち上がった。

それは「機能正常」という返答。

言葉ではない。けれど、確かに通じている。





ハネラたちの社会は、命令の精度=信用とされる。


歌が正確であればあるほど、より多くの都市機能を動かせる。

そのため、学校教育は命令歌の基礎から始まり、子どもたちは“初鳴きの式”で社会へ入る。

街には**詠唱士(えいしょうし)**と呼ばれる者たちがいて、複雑な歌で都市全体の設計や運用を担っている。


だが同時に、ハネラたちは「命令しない関係」を尊ぶ文化も持っていた。


一緒に過ごす。

反射光で羽を照らし合う。

棲歌を使わず、隣の枝で眠る。

命令ではなく、共鳴でつながる関係。


シエナは、それだけが、今の自分にできる生き方だと信じていた。





「おーい、シエナーっ!」


遠くから、明るい声が響く。

翼に柔らかな濃い緑の羽を持つハネラ――ルフォだった。

彼は操作士見習いで、命令歌の精度は群を抜いている。

が、誰に対しても距離が近く、歌えないシエナとも気さくに接する、数少ない存在だった。


「今日、コードが一部更新されるって。中心樹、軽く再起動するらしいよ。見にいかない?」


シエナは返事のかわりに、羽を2回小さく広げて光を反射させた。


それはハネラたちのあいだで「行く」の合図。


言葉がなくても、通じている。


そう信じて、彼女は今日も、声のない羽で、世界と向き合っていた。

奏樹―命を歌うものたち―

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