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第5話:ナポイント夫婦
「……ねぇ、これってあの人の文じゃないよね?」
昼下がりのファミレス。窓際の席に座るマキは、グラスの中の氷を指でくるくる回していた。
肩までの黒髪を低い位置でまとめ、目元にうっすらアイライン。
年齢より少し大人びて見える、そんな雰囲気の女性だった。
NaPointのページを開くと、元夫・シンヤの名前で書かれたレビューが並んでいた。
「夫婦ふたりで過ごした、最後の秋旅行」
「妻が選んでくれた靴が、今もお気に入り」
どれも“思い出”としては自然。でも、書き方が変だった。
硬くて、感情の温度がどこかずれている。
「こんな人じゃなかったのに。もっと……ぶっきらぼうだったし、レビューなんて苦手だったし」
スマホの通知が鳴る。
「あなたの投稿が“共感レビュー”に選ばれました(シンヤ)」
マキはそっと画面を伏せた。
数日前、彼からのLINEアカウントは消えていた。
けれど──NaPointでは、今も夫婦の思い出が更新され続けていた。
「これは、あの人じゃない。けど、私たちの名前だ。」
そうつぶやいたマキの指先は、氷を回すのをやめなかった。