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第6話:ペイペイが空っぽだった日
カオリは夕食の買い物袋を腕に下げ、団地の階段を上っていた。
エレベーターは数年前から止まったまま。今日も息子の好きなチーズ入りハンバーグを用意するつもりだった。
「……おかしいな」
リビングのテーブルにスマホを置き、ペイペイの残高を開いた。
数千円分はあったはずなのに、残っているのはたったの37円。
履歴をスクロールすると、知らない決済がずらりと並んでいた。
「NaPointギフト引き換え」
「NaPointプレミアレビュー招待」
「NaPoint有料掲載枠」
「……何それ」
NaPoint。数年前、主婦仲間に「レビューでちょっと稼げるよ」と教えられ、登録したことはあった。
でも、最近は開いてすらいない。
問い合わせフォームに入力し、震える指で送信ボタンを押した。
しばらくして自動応答が返ってくる。
> ご本人確認ができません。
この名義は現在、他の方にご利用いただいております。
一瞬、息が詰まった。
それはつまり、「もう“私の名前”じゃない」ということ?
台所で、冷蔵庫の音だけが響いていた。