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「──居た…。おい康二!」
非常階段の踊り場。膝を抱えて丸くなっている姿を見つけた瞬間、怒りよりも先に、どっと安堵が押し寄せた。
「…、照にぃ?」
涙で濡れた顔を上げた康二が情けない声を漏らす。…全く、どれだけ探したと思っているんだ。
「お前さ、振り覚え出来ないからってすぐ逃げんなって。」
少し強い口調になってしまうのは、俺自身の焦りの裏返しだ。
「…ごめん…。」
あからさまにシュンとして、更に体を小さく丸める康二。そんな姿を見ても、今は甘やかすわけにはいかない。
「ていうかお前見つけにくいとこ探す天才なの?舘さんも佐久間も阿部も、康二のこと心配して探し回ってるんだけど。」
「ほんまごめん…どうしても1人になりたかって。」
「それならせめて一声かけろよ。それ、お前の悪い癖だよ?」
一歩踏み込んで、康二の前に立つ。
コイツの優しさが、時にこういう不器用な形で空回りすることは分かっている。だけど、グループで動いている以上、これは流せない。
「…言ったら言ったで皆に迷惑かけるって思て、」
「言わずに消える方が迷惑。フォーメーション練習に支障出るだろ。」
敢えて突き放すような現実を突きつける。すると、張り詰めていた糸が切れたように、康二の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
「…ゔん…照にぃほんまごめんん゛…っ!」
声を殺しきれず。感情の赴くままに。彼は尚もぼろぼろと泣き出す。
「ふぅゔ…っぅう…!」
そうして嗚咽を漏らして、俺の腰に抱き着いてくる。
…あー…ダメだ。やっぱりこの泣き顔にはどうしても勝てない。
俺は小さく溜息を吐き、しゃがみ込んで隣に腰掛ける。その流れでその細い肩を引き寄せ、ぽんぽんと優しく叩く。
「あー…うん。ごめんちょっと言い過ぎたな?…よしよし…もう泣くなって。」
必死に食らいつこうとしてパンクしたんだってことは、誰よりも解っていた筈なのに。同じメンバーとして、リーダーとして…その顔を優先しすぎたと反省しながら、俺は空いている方の腕にも力を込めて康二の細い身体をぎゅっと抱き締めた。
「…てるにぃ、」
「…今は2人きりなんだから、そんな他人行儀な呼び方すんなよ。」
抱き締める腕を更にきつくして、康二の耳元で小さく呟く。
──俺と康二は、メンバーには隠しながら交際している。練習室を出た瞬間から、俺はリーダーであると同時に、『恋人』としての康二が心配で探していたというわけだ。
「…さっきの振り、何回も飛んでもうたから流石に怒られる思て…。照、嫌いになったんちゃうかって、怖かってん…。」
俺の胸元に顔を擦り付けながら、康二が消え入りそうな声で本音を漏らす。その健気で愛おしい姿に、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
「そんなので嫌いになるわけなくない?いくらでも教えてやるから素直になれって。」
ふっと笑って、康二の濡れた頬を片手で包み込む。彼は少し安心したように、潤んだ瞳で俺を見つめ返してきた。
「…照、ごめん。」
「いいよ。…ほら、皆が待ってるから、早く泣き止んで戻ろう。終わったら、たっぷり甘やかしてやるから。」
額に軽くキスを落としてやると、さっきまで泣きじゃくっていた康二は顔を真っ赤に染めながらも、嬉しそうに頷いた。