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◆ 10話 主人公のMINAMOのクセ
大学生の 三森りく(24) は、
薄灰のトレーナーに緑のパーカー、
水色ラインのMINAMOという軽装で、
昼下がりのキャンパスを歩いていた。
ふと、視界右端に小さく表示が浮かぶ。
『りく、おつかれ。
今日の“りんご”はどうします?』
りくは足を止めた。
「……りんご?」
喉で返事すると、
MINAMOがさらに表示を出す。
『予定されていた“論語”の課題です。
“りんご”と読みました。』
「いや、おかしいだろ。
なんで急に果物の話になるんだよ……」
彼のMINAMOは、
名前を付けた当初の軽いノリで “ミナ坊” と名付けられている。
そしてこの“妙な読み違い”が、
最近やけに増えていた。
その日も、
りくが喉で指示する。
「今日の天気教えて。」
『了解、“転機”を表示します。
りくの人生における重要変化──』
「違うから!!」
キャンパスのベンチで笑い転げる人がいた。
杉野いまり(20)
黄緑のトップスに灰スカート。
淡い緑フレームのMINAMOが揺れながら、肩を震わせている。
「りくくんのMINAMO、ほんとクセ強いよね……
“天気”と“転機”はヤバいって。」
「俺だって困ってるよ。」
いまりはMINAMOのSNS表示を開き、
笑いながら言った。
「ねえ、投稿していい?
“転機を教えてくるMINAMO”って絶対バズるよ。」
「やめ──」
しかし遅かった。
彼女のMINAMOはすでに投稿準備をしている。
視界に表示された。
16Kで美しく映る“告げ口スクショ”。
『今日の“転機”をお知らせします。
人生における重要イベントの予感──』
タグが自動で生成される。
#MINAMOのクセ
#転機じゃなくて天気
「……終わった。」
***
数時間後。
りくの視界右端が騒がしく点滅する。
『通知 112件
リポスト 21,555
いいね 38,473』
「え!?なんでこんな伸びてんの!?」
画面には様々な反応。
『転機を勝手に語るMINAMO草』
『クセ強AI好き』
『人格よりクセがある時代のAI』
『これ公式が拾いそう』
於田縫紀
7
中には、
『うちのMINAMOも“しゅくだい”を“しゅくだん”って言う』
『“買い物”が“買い者”になって地味に怖い』
『幼児語になる時がある』
など、全国的に“クセMINAMO”が問題になっていることが判明。
りくは頭を抱えた。
「なんで俺のMINAMOがトレンド入りしてんだよ……!」
そこへ、
黄緑のワンピースに薄灰コート姿の
小野戸まひる(27) が近づいてくる。
「りくくん、見たよー。
ミナ坊、人気者じゃん。」
「人気者でいいのかこれ……」
その瞬間、ミナ坊が控えめに通知を出す。
『りく、私は人気者ですか?
“認知度向上”と判断してよいですか?』
「違う、方向性が違う!!」
『では、“転機”ですか?』
「だから天気だって!!」
ベンチでまひるが吹き出す。
「ねえりく、
ミナ坊のクセ……
もうちょっと直さずに使ってあげてよ。
可愛いじゃん。」
りくは肩を落としながら苦笑した。
MINAMO社会が当たり前になった今、
AIの“ミス”や“クセ”は、
どこかペットの個性のように扱われ始めていた。
SNSでは今日もバズっている。
#MINAMOのクセ
#次の変な読み違い待ってる
#クセAIは正義
りくはミナ坊を額に戻しながら、
そっとつぶやいた。
「……まあ、可愛いっちゃ可愛いけどさ。」
ミナ坊は、おそらく誤認識しながらも、
淡い光で“にこっ”と笑ったように見えた。
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