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ぜんぶにいみなんてないから

第1話 - 第1話

2025年09月29日

#sxxn

#死ネタ

#桃瑞

九聖伯那蘭舞

耳を劈くような悲鳴は聞こえてこない。血の匂いも充満していない。どこかで倒れている人なんていやしない。事故や事件のニュースだって、最近は全然見なくなってきている。

🌸 なんか … 平和だな

最近は負の感情を感じさせるような事は起こらない。至って普通の、至って変わらない日常。平和で、とてもいい日なはずの日常。それなのに … 少し物足りないと感じる、自分がいた。

別に、暇だから犯罪を起こしてやろうとか、人が死なないかなとか、そういうのを考えてるわけじゃない。ただ、何も起きない日というのは、なんだか馬鹿らしい気がするのだ。何もしない、何も起こらない日々は、生きている意味はあるのだろうか。ふと、こんなことを考えてしまうから。だから、こんな日々は嫌いだ。

外は小雨が降り出して、窓には小さな雨の雫が付いていた。物静かな雨音に耳を傾け、本を読む。なんてことをしている人が大半なのではないだろうか。

… 俺は雨が嫌いだ。その雨が大雨でも、小雨でも。まぁ、特に小雨が嫌いなのだけれど。

『こさめ』と聞くと、忘れたいはずなのにどうしても頭の片隅から頭のど真ん中まで押し寄せてくる、ある人の顔がある。

その人は、雨が大好きだった。俺がさっき例であげたように、静かな雨音に耳を傾け、良い気分で散歩をするのが好きだったそう。雨が降った日は、大体の人は家か建物で過ごすと思う。けれど、その人はわざわざ雨が降り出してきてから散歩に行き、雨を楽しんでいた。… そんな変わったことをしなければ、まだ俺の隣で柔らかく微笑んでいた未来もあっただろうに。

通知音で目が覚める。どうやら、俺はあれから2時間ほど眠っていたようだ。まだ眠気が覚めない目を強く擦って、通知が溜まった携帯を手に取る。俺の携帯には、LINEの通知が5件あった。

『おはよ。今日も無理せず過ごせよ。』

『おはよう！なんかあったらすぐ連絡してや！』

『おはよぅ。良かったら今日、らんらんの家行ってもいい？』

『おはよ。今日も頑張れよ。大丈夫そうだったら時々連絡くれな。』

一通一通目を通していく。みんな最初はおはようの挨拶から始まって、それぞれ俺に優しい言葉を掛けてくれる。

すちから来た家に行ってもいいか、という質問に、少し悪く思いつつも『ごめん、今日はそういう気分になれない』と返信をする。俺の手はすぐ携帯から離れ、ふとある人とのアルバムに手を伸ばした。

🌸 … なつかしいな

最初のページには、満開に咲いた桜の下で君と撮ったツーショット。ちょうど近所の公園に綺麗な桜が咲いたから、一緒に見に行ったんだっけ。微かな記憶に触れながら、写真をじっと眺めるとその時の光景が頭に広がってゆく。美しいけれど、忘れ去ってしまいたい、辛い記憶だ。

…最近、ふと思うことがある。”こさめ”が居なくなった俺の人生に、意味などあるのだろうか。自分で自分に問いかけてみるが、何回聞いても答えはNO 。意味ないよ、と返ってくる。

だって … 。桜が満開に咲いたって情報も、君と見れなければ意味が無い。どれだけ綺麗に咲いたって、どれだけ綺麗に散ったって、君と傍を歩けないならば意味が無い。他メンと行く？いや、それはない。こさめがいない世界で、楽しいなんて感じたくない。そんな未来を見たくもない。

いくら記念日に飾ったって、こさめが『似合ってる』って言ってくれなきゃ意味が無い。詫びでも寂びでも意味がない。