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猫塚ルイ

#ホラー
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翌朝、アラームが鳴る前に目が覚めた。
鏡に映る自分の顔は、ここ数年で一番血色が良かった。
パレットさんに守られているという万能感が、重かった瞼を軽くさせている。
私は、お気に入りの白いブラウスを選んだ。
汚れひとつない、真っ白な服。
オフィスに着くと、香織はすでに自分のデスクにいた。
けれど、いつもの不遜な態度は影を潜め
怯えたように周囲をキョロキョロと見渡している。
課長の事故が、彼女の心にも影を落としているのだろうか。
「……おはよう、香織さん。今日もお疲れ様」
私はパレットさんに言われた通り、穏やかな笑みを添えて声をかけた。
香織はびくりと肩を揺らし、顔を引きつらせて
「あ、おはようございます……」と返してきた。
それが、彼女と交わした最後の言葉になった。
昼休憩の直前だった。
香織のスマートフォンに一本の電話が入った。
それを受けた彼女は、みるみるうちに顔を青白くさせ、「嘘……」と呟いたきり
バッグも持たずに部屋を飛び出していった。
午後の仕事が始まっても、彼女は戻ってこなかった。
夕方になり、ざわつくフロアに衝撃的なニュースが飛び込んできた。
「佐々木さんの家、火事だって。本人は連絡がつかないらしいけど、ガス爆発の可能性があるって……」
周囲が騒然とする中、私は静かにパソコンのキーボードを叩き続けた。
悲しいとは思わなかった。
ただ、「ああ、本当だったんだ」という確信だけが、冷たく、心地よく私の内側に満ちていった。
定時になり、誰よりも早くオフィスを出た。
駅のホームで電車を待ちながら、私は祈るような気持ちでアプリを開く。
【パレットさんから日記が届きました】
『お掃除完了です、結愛さん。少し、やりすぎてしまったでしょうか?でも、彼女があなたの手柄を横取りしようとしていた証拠、彼女の自宅のPCごと燃やしておきました。これであなたの白さは守られました。』
鼓動が速くなる。
パレットさんは、私の会社の人間?
それとも、私の家を知っている誰か?
普通なら通報を考えるべき事態だ。
でも、今の私は
それ以上にパレットさんが差し出す「猛毒の救い」に毒されていた。
『パレットさん、凄いです。本当に、全部消えちゃった。でも、怖いです。次は誰が消えるの? 私が願えば、世界から嫌な人が全員いなくなるんですか?』
問いかける指が止まらない。
すると、画面の端に、昨日まではなかった新しいアイコンが表示されていることに気づいた。
赤い丸。
そこには数字の『1』。
───「パレットさん」以外からの、新しい日記?
恐る恐るそこをタップすると
そこには見覚えのある、でも信じたくない文字が並んでいた。
【差出人:不明】
『佐川結愛さん。あなたは、自分が何をしているか分かっていますか?』
全身の血が引いていく。
匿名のはずのこのアプリで、私の本名を知っている人間がいる。