テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
女装男子は恋したい 4
「好きだよ、柔太朗」
その一言で。
ずっと張りつめてた何かが、ぷつんって切れる。
視界がにじむ。
うまく笑えない。
うまく返事もできない。
代わりに。
一歩。
そして、もう一歩。
「…….
佐野の胸に、ぎゅっと抱きつく。
勢いじゃない。
しがみつくみたいに。
離れたくないって、無意識に。
「え、」
一瞬だけ驚いた声。
でも次の瞬間。
背中に、あったかい手。
包み込むみたいに抱き返される。
「……よかった」
ぽつり。
耳の近くで。
低くて、優しい声。
涙が止まらない。
「こわ、かった……」
服をぎゅっと掴む。
震えが止まらない。
「うん」
「嫌われると、思った」
「うん」
否定しない。
全部受け止める返事。
「でも」
少しだけ体を離して、顔を見る。
涙でぐちゃぐちゃ。
きっと可愛くない。
メイクもしてない。
完全に、男の顔。
それでも。
佐野は笑う。
さっきと同じ、柔らかい笑顔。
「可愛い」
即答。
「泣いてるのも、素なのも」
親指で、頬の涙をそっと拭う。
「やっと会えた感じする」
胸がぎゅっとする。
「……俺、重くない?」
不安が最後に顔を出す。
佐野は少しだけ考えて。
首を振る。
「むしろ軽くなった」
「え?」
「ずっと一人で抱えてたでしょ」
また、ぎゅっと抱きしめられる。
今度は落ち着いた強さ。
守るみたいな抱き方。
「これからは半分こ」
その言葉で、また涙。
でも今度は嬉しい涙。
「柔太朗」
名前を呼ばれる。
自然に。
当たり前みたいに。
「もう逃げなくていいよ」
心臓が、やっと静かになる。
トイレの前。
人が通る場所なのに。
今だけ、世界が二人だけみたい。
「……好き」
小さく。
震えながら。
初めて、自分から。
佐野の服を掴んだまま。
「俺も、好き」
言い終わる前に。
佐野が、額に軽く触れる。
キスじゃない。
でもそれよりあったかい。
「やっと両想い」
照れた声。
涙が止まって、代わりに笑いがこぼれる。
ウィッグも、メイクもない。
でも今が一番、本物。
「好きだよ、柔太朗」
その言葉が、胸の奥に落ちる。
逃げなかった。
名前も言った。
男だって言った。
それでも——好きって言われた。
頭が真っ白。
でも、不思議と怖くない。
ただ、震えてる。
指が絡んだまま。
佐野の手、あったかい。
「……俺も」
声がかすれる。
うまく続かない。
でも、伝えたい。
ちゃんと。
レンタルでも、ありさでもなく。
山中柔太朗として。
ゆっくり、一歩近づく。
佐野が少し驚いた顔をする。
でも動かない。
選ぶのは、こっちだってわかってるから。
心臓、うるさい。
唇、乾いてる。
怖い。
でも。
「……好き」
やっと言えた。
小さく。
震えながら。
佐野の目がやわらぐ。
その瞬間。
もう待てなかった。
背伸び。
距離を詰める。
ほんの一瞬、迷う。
——それでも。
そっと、触れる。
唇。
軽く。
本当に、軽く。
触れたかどうか分からないくらい。
でも、確かに触れた。
時間が止まる。
すぐ離れる。
顔が熱い。
「ご、ごめ……」
言い終わる前に。
佐野の手が、後頭部に触れる。
優しく。
逃がさないけど、強くない。
「謝らないで」
低い声。
すぐ近く。
「俺、今めちゃくちゃ嬉しい」
心臓が跳ねる。
佐野の額が、こつんと触れる。
「初めてだよね?」
小さく頷く。
恥ずかしい。
でも隠さない。
佐野が少しだけ笑う。
「大事にしたい」
そう言って。
今度は、佐野から。
ゆっくり。
確認するみたいに。
柔らかく、唇が重なる。
さっきより、少しだけ長い。
でも優しい。
離れたあと。
お互い、少し息が乱れてる。
「……震えてる」
佐野が笑う。
「だって」
正直に言う。
「怖かったし、嬉しいし、全部一気にきた」
佐野の指が、また絡む。
ぎゅっと。
「これからは」
まっすぐな目。
「ありさじゃなくて」
「柔太朗として、デートしよ」
涙がまたにじむ。
でも今度は、笑いながら。
水族館の青い光の中。
嘘なしで、はじまる。
唇が離れた瞬間。
世界が急にリアルになる。
キスした。
俺が。
男のまま。
佐野と。
心臓が急にうるさくなる。
(やばい)
(なにしてるんだ俺)
佐野の優しい目。
「柔太朗」
名前を呼ばれる。
それが嬉しいのに、怖い。
これ、戻れない。
レンタル彼氏じゃない。
遊びじゃない。
本気。
「……ごめん」
後ずさる。
佐野が少し驚く。
「え?」
「やっぱ無理」
言った瞬間、自分で胸が痛む。
でも止まらない。
「俺、変だし」
「普通じゃないし」
「今はいいって思っても、絶対どっかで嫌になる」
早口。
震える声。
自分で自分を刺すみたいな言葉。
佐野の顔が曇る。
「柔太朗、」
「ごめん!」
逃げる。
水族館の出口へ。
青い光が揺れる。
視界がぼやける。
足音が後ろから近づく。
「待って!」
腕を掴まれる。
強くない。
でも必死。
振り返る。
佐野の顔は、さっきと違う。
焦ってる。
「なんで逃げるの」
「だって……」
言葉がぐちゃぐちゃ。
「俺の気持ち、伝わらなかった?」
静かな声。
でも震えてる。
その一言で、足が止まる。
「ちゃんと好きって言ったよ」
「性別どうこうじゃないって言ったよ」
「それでも足りなかった?」
目が真っ直ぐ。
逃げられない。
「俺が怖い?」
違う。
「……自分が怖い」
やっと出た本音。
「好きになって、捨てられるのが怖い」
声が崩れる。
「最初から一人なら傷つかない」
佐野の表情が変わる。
痛そうな顔。
「俺、そんなに信用ない?」
胸が刺さる。
「そうじゃない」
「じゃあなんで俺を悪者にするの」
はっとする。
佐野は怒鳴らない。
でも真剣。
「俺のこと、勝手に“いつか嫌いになる男”にしないで」
息が止まる。
「ちゃんと好きだよ」
一歩近づく。
「今も」
「さっきキスしてくれたのも、嬉しかった」
「逃げられる方が傷つく」
その言葉が重い。
嘘じゃない。
本気。
「柔太朗」
名前を呼ぶ声が、少し掠れる。
「俺、遊びで追いかけてない」
距離が近い。
でも触れない。
「怖いなら一緒に怖がろうよ」
胸が熱い。
「でも」
小さく。
「俺の気持ちは、消えないから」
静かな水の音。
逃げるか。
残るか。
「……ごめん」
また、一歩。
引いてしまう。
本当は抱きつきたい。
でも怖い。
信じきれない自分が、まだいる。
佐野の目が揺れる。
傷ついたのがわかる。
それでも怒らない。
それが余計に苦しい。
柔太朗は視線を逸らして、くるっと背を向ける。
「今日は、帰る……」
逃げじゃないって言い聞かせながら。
でも足が動く前に——
後ろから、腕。
ぎゅっと。
バックハグ。
一瞬、息が止まる。
強引じゃない。
でも、離さない意志がある。
「……行かせない」
耳元で、低い声。
初めて聞く、少しだけ必死な響き。
「一歩引くのはいい」
腕が、少しだけ強くなる。
「でもさ」
背中越しに鼓動が伝わる。
速い。
自分と同じくらい。
「俺のことまで遠ざけるのは、だめ」
喉が詰まる。
「柔太朗が怖いの、わかる」
「でも俺も怖い」
初めて聞く弱さ。
「好きって言って、逃げられるの」
胸がぎゅっと締まる。
佐野の顔が、背中に少し埋まる。
「俺の気持ち、そんなに軽く見える?」
震えた声。
怒ってない。
でも本気。
「遊びで追いかけてない」
「性別も、見た目も、関係ない」
「好きなのは、お前」
“ありさ”じゃない。
“山中柔太朗”。
その呼吸が、背中にあたたかい。
「一歩引くなら」
少しだけ間。
「俺が埋める」
腕が緩む。
でも、離れない。
選ぶのは柔太朗。
無理やりじゃない。
「逃げるなら、ちゃんと俺を振って」
静かに。
「でも、怖いだけなら」
息がかかる距離で。
「一緒に震えよ」
涙がこぼれる。
背中越しに。
こんなに真っ直ぐ来られたら。
逃げ道が、優しさで塞がれる。
「……ずるい」
やっと出た声。
佐野が小さく笑う。
「うん、今ちょっとずるい」
正直。
「でも離したくない」
その一言で、膝が少し震える。
どんどん好きになっていく。
コメント
1件

凄く凄く素敵でした✨ 続き楽しみにしてます!