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───放課後。
俺は緊張しながらも玄関でぼーっと立ちながら待っていた。どんどんと人が流れるように出ていく中、1人大きく手を振って俺に駆けて来る生徒───トラゾーくんがこちらに来ていた。
「ごめん!待たせたよね?! 」
「や…大丈夫………です。」
ひきつった笑みだとわかっているが、それでも笑顔で対応した。トラゾーくんはカバンの中からスマホを取り出して、ある画面を映し出して俺の目の前に突き出す。
「これ、ぺいんとくん…だよね?」
目の前に突き出された画面───それは、俺の動画投稿サイトに投稿されている動画、マインクラフト動画が映し出されていた。俺の1人の寂しい独り言がスマホから聞こえる。
その瞬間に、酸素が消えたのかと思った。そのくらい動揺した。
「……や、え、と……」
否定の言葉が出てこない。これじゃトラゾーくんにこの投稿者は俺だとバラしているも同然だ。俺はついに諦めて、その質問に静かに頷いた。
「ほ、ほんとに?」
トラゾーくんにもう一度質問され、今度はちゃんと頷いた。
「…そっか。そっかそっか!」
相手はだんだんと笑顔になってきていて、よく状況が飲み込めなかった。もしかしたらクラスのみんなに言いふらすのかもしれない。そして馬鹿にしてくるのかもしれない…。
そう思うと、俺は足の震えが止まらなかった。
「ねぇ!俺もしたい!」
「………へ?」
急な発言に、俺の頭は混乱する。したい?したいって何を?投稿?ゲーム?編集?いやそれとも別の何か?
そんな風に俺は頭の中が混乱したままでいると、相手は気付いたのか”ごめんごめん!“と謝りながら説明を始める。
「俺もぺいんとくんとゲーム実況したい!」
「………はへ?」
まっっっったくわからない。なぜその結果に陥ったのか。なぜ俺なのか。頭の中でなぜが繰り返すばかりで答えは見つからない。
「なん、で?」
声に出して聞くと、相手はうーんと唸ってから答える。
───”楽しそうだから”と。
「…………ダメ、かな?」
相手は困った顔をしながらもそう問いかけてくる。陽キャだったら断っている。…が、当然俺は隠のキャなので断ることはできず、渋々頷いてしまった。
…はぁ〜……。
心の中で深くため息をついてから俺はその場を後にしようと歩き始める。
「あ、あとさ。」
「?」
ふと、トラゾーくんが声をかけてきたため振り向くと、相手は困惑したように”あ…えと……”と言葉を濁す。呼び止めたくせして、覚悟は決まっていないのかと呆れる。
「………明日、また話そう!!」
大きく手をブンブン振り、こちらに笑顔を向けている。正直関わりたくないような人にも思えてきたが……。俺は小さくそれに振りかえした。
「……………また。」
小さな声で、ぼそっと言った声は相手には聞こえていない。
……………
「今日ちょっと遅かったね?なんかあったの?」
帰ってから早々言われた言葉はそれだった。母親からの心配の言葉。それが聞けただけでも嬉しいし、少し安心してしまう。でも、嫌だ。
いつまでも心配されるような年齢ではなくなったし、俺にも”自分の意思”がある頃だ。それなのにこう聞かれるってことは、相手にとって俺はまだまだ”ガキ”なのだ。
「…ううん、同級生と話してただけ。」
そう言うと相手は心底安心したような顔で、キッチンの方向へと向かっていった。どうやらちょうど夕飯の時間に帰ってきたようだ。
俺は靴を脱ぎ家の中に入る。パチパチと油の跳ねる音が聞こえ、すぐに察する。
───あぁ、またいい子ちゃんになったのか。
……………
「今日はぺいんとの大好きなエビフライだよ!」
リビングに入って早々に言われた言葉はそれだった。
机に置いてあるのは家族みんな分のご飯。すでに妹と父さんは食べていて、俺の皿だけに綺麗に並べられたご飯があった。
「おにーちゃん、遅かったじゃん。」
ご飯を食べながらモゴモゴ言う妹。実の妹なんだし、可愛いとは思う。でも無口で口下手だし、クールな方だ。でもそんな性格に反して、兄の俺に似たのか、人の機嫌を伺うようになってしまっていた。
「何でもないよ。同級生の手伝いしてただけ。」
笑顔でそう言っても、妹は実に信じられないとでも言った顔をしていた。…あぁ、なんだか食欲が湧かない。ひどくお腹が膨れている。
「…ぺいんと、食べないのか?」
母さんのご飯を美味しそうに食べる父さんに言われて箸を握る。
「ううん、疲れただけ。」
箸を握るのも辛い。ご飯を食べるのも辛い。座るのも辛い。立つのも辛い。寝るのも辛い。
…何をしたら俺は辛くないんだよ。