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チュンチュンうるさい鳥が鳴く。ひどく耳障りに聞こえて仕方がない。そんな、晴れの日だった。
「じゃっ、行ってきまーす。」
一言、そう玄関で叫んでから家を後にする。そして一歩を踏み出そうとした時だった。
何故か後ろに引っ張られる感覚があって、滑りそうな足を止めて後ろに振り向く。そこにいたのは妹で、いつものクールな顔でそこに佇んでいた。
「…どうした?」
微笑みながらそういうが、妹は俺の服の袖を掴んで離さない。どうしたのだろう。学校に行きたくないのだろうか。そんな思考を巡らせるが、相手は深呼吸をしてからこちらに一言。
「おにーちゃんに期待なんてしてないから。」
そう一言残して、今にも泣きそうな顔のまま走り去ってしまった。俺は数秒間動くことができず、その場にへたりと座り込む。
……なんていうか、安堵?かもしれない。
──────俺の妹は、1人の味方だ。
大丈夫だよ。ちゃんと俺に意味は伝わってるよ。だからさ、泣きそうな顔しないで。泣きそうな顔したまま学校に行かなくたっていいのに。
「……俺、よえーなぁ……。」
涙が出てくる目を必死に両手で押さえる。そのまま、学校へと向かった。ひどく恥ずかしかったけど、そんなの関係なかった。ただ妹の言葉が嬉しくて嬉しくて、優しくて暖かくて………。ひどくスッキリした感覚に襲われた。
そうして俺はスマホを取り出し、妹にメールを送信した。たった一言───『ありがとう』と。そこに返ってきたのはいつものクールな妹の返信───『何もしてないし。』の一言だった。
……………
「あ!ぺいんとくん!」
ふと、聞き慣れた声がする。そちらに目を向ければ、そこにいたのはトラゾーくんで、コ◯ンの小説を持ち歩いていた。俺はトラゾーくんよりもコ◯ンにしか目がいかない。
「と、トラゾーくん…また図書室で本読むの?」
「っえ。あ、あぁ……うん。そう。」
俺の言葉にびっくりしたのか、胸に抱えている小説を覆い隠すようにしてぎゅっと握りしめていた。
───あれ、これ、誤解させてしまったやつでは?俺がトラゾーくんが持ってるコ◯ンの小説のことよく思ってないみたいになってないか?!いや、違う!!これは断じて!!
「……変だよね。」
相手からかけられた一言。違う!違うんだよ!!なんで?何で声が出ないんだよ…?
「…っぁ……ぁ………ぇ……」
掠れた声しか出ない。か細い声しか出ない。小さい声しか出ない。何故?何が原因で?何が怖くて?何が─────────嫌なんだよ。
「嫌なら、はっきり言って大丈夫だよ。」
はっきり、言いたい。”違う”って。”俺も好きだ”って。”友達になろう”って。でも出ない。俺は真面目だから。
……でもさ、あり得ない話だよ?あり得ない話だけど……もし俺がその小説のことをよく思ってなくて、はっきり言ったら、君はどうするの?
……真面目ちゃんの回答は、俺にはよくわかる。俺が不真面目じゃないから。
「…はっきり言ったら、どうすんの?」
空気が凍てつく。先ほどまで絡まっていた言葉同士がびっくりするほどスルスルと解けて、スルスルと言葉になって出てくる。
……真面目なんて、疲れるだけだとよくわかっているのは自分だ。だからこそ気になった。君は───俺とは違うタイプの真面目ちゃんは、どう回答するのか。
俺なら、迷いながらもこう言うね。”そっか。ごめん”って。君ならどう?君なら真面目を貫き続ける?
「───はっきり言われたら、笑っちゃうかも。」
「………は?」
真面目ちゃんの回答に、俺はビビる。何?笑う?どんな回答であろうとも?
「…どれだけバカにされた言葉を言われても、俺は笑っちゃうかも。はっきり言い過ぎだろ!ってね!!…ぺいんとくんって、なんかおかしいね!」
「っ…!」
彼の初めて見た笑顔。頬を染めて、涙を溜めて、本当に笑っている声と顔。
その時さ、初めて不真面目って面白いって思ったんだ。初めて、俺は不真面目なんじゃないかって思えたんだ。