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数日後の金曜日、有休を取ったという怜と奏が日中に東新宿の自宅へやってきた。
二人とも楽器を持参し、挨拶を交わした後に瑠衣は防音室へ案内した。
楽器の準備をしながら雑談する内容は、侑と瑠衣が想いを通わせ、恋人同士になった事だ。
「それにしても瑠衣ちゃん、良かったね!」
「奏ちゃん、ありがとう。改めて言われると、ちょっと恥ずかしいかも……」
怜がストラップを首に掛け、アルトサックスを装着させながら二人の話に混ざる。
「アイツは寡黙な所があるから、俺が侑に九條さんの事を聞いても恐らく答えないだろうし、まぁ……アレだ。九條さん、良かったな」
涼しげな瞳が細められ、怜がクシャっと笑う。
「葉山さん、ありがとうございます」
「じゃあ、早速だけど、トリオ版のスコアね。私と怜さんは動画見た後に少しだけ練習したけど、ラッパは初見でもいけそうな感じだよ」
奏からトランペットパートの楽譜を受け取り、ざっくりと眺めてみた。
「楽譜見るとさ、速度記号や強弱記号はあるけど、曲想記号ってあまり書いてなくね?」
怜がアルトサックスのスコアを見ながらボソっと呟く。
「それは多分、曲名の『トランペットラブレター』の『ラブ』の形が人それぞれだから? よく分からないけどっ……。作曲者のイメージする語句みたいなものは書いてあるみたい」
「愛っていっても、色々な愛があるよね。恋愛、親愛、友愛、家族愛、師弟愛…………とか? フリーってワードがちょいちょい書いてあるって事は、演奏者に委ねるって感じなのかな……」
「瑠衣ちゃん、何か凄い。私、愛って言ったら恋愛とか愛情くらいしか思い浮かばないなぁ」
「奏から話を聞いたけど、侑のヤツ、なかなかやるなぁ。ミニコンサートのアンコールで『トランペットラブレター』の原曲版を演奏したんだろ? アイツが音楽で気持ちを伝えるなんて、らしいというか、らしくないというか……」
こういう複数人以上で、ひとつの楽曲について話すのは高校時代以来だな、と瑠衣は思う。
当時は夏のコンクール近くになると、年中こんな話をしていたのではないか。
恐らく、ここにいる怜と奏も、高校時代に同じような経験はあるだろう。
「そういえば、トリオ版は侑に内緒で練習するんだろ? まぁせっかく三人集まってるワケだし、アイツが帰って来る前に、ひと通り合わせてみるか」
怜の声掛けで、三人は準備を整えた後、静かに演奏を始めた。