ー彼岸霧山ー
神戸に住む住民はこの山をそう呼んでいる。彼岸霧山は昔から霧が濃く、訪れた者は霧山を彷徨い続けると噂されていた。霧を抜けたとしても、この山を出たら 彼岸霧山に入った記憶が消されてしまう───。この彼岸霧山は何故霧が濃いかと言うと、その理由の1つは───。
“この山に鬼が住む村の集落がある”
まるで、人間を入れないかの
福田食堂を後にした雫は町の離れにある彼岸霧山に帰る最中、和菓子屋に寄って菓子を購入して山に向かって行った。
昼の神戸は人で賑わっており、客引きする商人や旅人、食堂から漂う出汁の香りまで日常を賑わす神戸の町並み。この町では外国から伝わる、洋食屋やパン屋も見られるようになった。
雫はそんな賑わう人々に紛れて1人北野に向かって歩いて行く。北野は明治時代以来、洋館やモダンな建造物、異国からの人間も見られるようになった。この北野のすぐ上の山、町の外れにある彼岸霧山へと向かって───。
彼岸霧山へと足を踏み入れる。
進んでゆくと目の前には濃い霧 雫は動揺とせずそのまま深い霧の中へと入っていく───。
霧の山道には野生動物の鳴き声も一切聞こえず、風音も澄んだ音と虫の声のみ 進んでゆくと見えるのは紅い花── 彼岸花が霧に包まれた地面に目立つように咲いていた。
この霧は自然に出来たものではない鬼術で出来た霧だ。
進んでゆくと、そこには一筋の光が差し込み霧が徐々に晴れて行った。
晴れた先に進み行くと…集落の村が見えた。こんな霧がある山に───。
雫が村に入る。木造の家が見られるこの村は不自然と村民がいるみたいだ。
「おおっ “彼岸鬼“が帰ってきたぞ!」
1人の若者が声を上げた。彼岸鬼と言うのは雫のことだ。
「おかえりなさい 今日の人間の町はどう?」
雫「…変わりは無いですよ。いつもの…ただ変わりなく」
村人が雫に次々と話し掛けてくる。女村人は人間の町と呼んでいるのは…明らかに人外な言い方 しかし、村人には目の瞳孔が細いのと角が生えていた。
───そう、この村は、鬼が住んでいる村の集落だった。
「にしても…今日はいつもより早いなぁ?」
雫「えぇ…今日は…その……」
雫が話しこもうとすると───。
彼女が帰ってきたら、鬼の少年が雫に向かって走って来た。小さい一本角に市松模様の着物 歳は8歳ぐらいで背丈が低めの鬼で、村では雫に懐いてくる元気な少年だ。
雫「優鬼(ゆうき)君、ただいま」
優鬼「ねぇねぇ雫姉ちゃん!今日はなんだった?お土産は?!」
人間の子供のように目を輝かせる。雫が朝市で町に出掛けた際、帰る頃にはよく優鬼に直球で話し掛けて来て 人間の町に興味津々 雫が帰って来たらお土産を渡し、人間の話をしたら喜んでくれる。
雫「…あるよ。今日は和菓子屋に…桜餅とおはぎを」
優鬼「それっていつもの?」
雫「うん…」
優鬼「なーんだ、でもいいや 人間が食べる甘味は大好きだし」
いつも食べる菓子につまらなそうにするが、好物の甘味に満足する。
「これ優鬼、こんなこといわんと」
優鬼「だってぇ〜」
「ねぇ、最近ではモダンや洋食も見られたのけ?」
雫「えぇ…そう…なんだけれど……異国の人間も度々見られましたが……異国のは…」
優鬼「………」ジーっと雫を見る
「でも…私、モダンな服は着てみたいわ」
雫「……今度何処に売ってるか見てきますよ」
大勢に集まる村人に気遣いで笑みを浮かべた。
ここの村人は人間に興味を抱いており、他の鬼とは違い、人間に敵意は無い。この村は唯一、戦いを好まなず、戦意を捨てた者が多い為 この山の中に村を作り、人間との争いを好まず 村民達は、”人間との和平を望む村 ”を作った。
───村の名前を、彼岸霧山の中にある由来で彼岸霧村と名ずけた。
霧は部外者への侵入させない為、鬼術によって村を守っていたが、近年村を守っていた霧を出す鬼が死亡し、今現在は日本を転々とした雫が鬼術にて霧を出して今に至る。
雫がこの彼岸霧村に入れたのも、少女の鬼術によるものだ。
しかし村人達は何故、誰一人人間の町に降りられていないのか?
雫から貰ったおはぎを頬張る優鬼
優鬼「うん 今日もうめぇ!この菓子いい小豆使ってんな〜」
雫「ふふっ 優鬼君は本当に好きなのね」
家の縁側で和菓子を幸福そうに頬張る優鬼を見て少女は微笑む。雫が帰って来るとお菓子を優鬼に渡して、家に持ち帰ってよく縁側で和菓子を食べているのだ。町から帰ってきたら真っ先に雫に駆け寄りお土産をねだられるのは、毎日優鬼の日課。
雫「それにしても、優鬼君は山に降りなくてもいいの?こんな美味しいものは、町に売っているのに」
優鬼「俺も山を降りたいけどぉ…村人誰一人降りて来ねぇんだ。最近じゃ珍しいもんが見られるようになった村人も降りてくるやつもいるが…帰ってこねぇ。
ボロボロになって戻ってくるやつもいるけどよ、人間の和平を望もうと願ってるやつも多い。でも、なんでか”**俺らを敵視”**してる」
雫「…優鬼君は、人間は好き?」
優鬼「そりゃーね!嫌いにはなれねぇよ。いくら敵視してるからだって、俺は人間と仲良くなりてぇんだ!」
そう言って包みに入ってたおはぎを食べ終わる。
確かに今では敵視している人間が多い中、争いを好まない鬼もいる中、今でも人間が妖と鬼を殺し続けている。種族が違っても、共存する世界に平穏を望む者はこの世にいるのに───。
優鬼はこの世界の鬼で唯一人間と仲良くなりたいことを願う少年だ。
優鬼「いつかはさ、人間と友達になりたいんだ。でもさぁ、村のみんなは誰一人町に出掛けたことねぇんだ 姉ちゃんが死んでから変わっちまった…人間に殺されたことを知られたからか、それ以降昼間に村人は降りてきているが、山から出たことすらねぇんだ。」
雫「…それだったら…行けば…いいじゃない?確かに人間と仲良くなりたいなら…その…」
俯き口もごる雫。こんな時なんて言葉をかけたらいいか思いつかない…私は町に馴染んではいるけれど、この村の人達は和平を望んではいるものの、同族が始末されるに恐れてる───。
臆病者が多いこの村は、いつまでこんな無意味な理想を夢見ているのだろう?
優鬼「でも…人間たちは怖がるどころか、迫害される世界を変えたいなら───」
「それは無理な理想だ」
冷たく鋭い声が雫と優鬼に近付いて来る。白い肌、冷たく冷酷な目付きに漆黒の髪色、ドスの効いた鋭い声の”男の鬼”。
優鬼「ッ…冷人(れいと)兄ちゃん…」
冷人「人間に迫害される世界を変えたいだと?そんな叶わぬ理想にまだ追い続けているのか」
冷たく否定する冷人に、息を飲む優鬼。冷人はこの彼岸霧村の村長の息子だったが、村人達が人間と和平を結ぶのが気に食わない態度を取る中で、1人だけ馬鹿らしいと否定をしていた彼に村人達は何故村にいるのか嫌気が差していた。
転々とした雫に対しても酷く、その冷たい態度でいた。彼女が戦後、人間から迫害を受け、正体を隠しながら町に商売してる自体が気に食わない事に虐げてられていた。優鬼もその1人だ。姉が亡くなってから以降、その理想が気に食わないことに。
冷人「それに、人間が作る菓子など まだ買っていたのか。貴様」
雫を睨む。包みに入ってたおはぎを手に取る。
雫「ッ…」
冷人「こんなものをまだ買うしも、人間が住む町で商売をまだやっていたとはな。相変わらず反吐が出る、”お前も同じ種族”であろうのに」
優鬼「………し、仕方ないのだよ!雫姉ちゃんは生きる為にお金を稼いで働いて……それに、人間を襲わないと決めたんだ!」
反発する優鬼 しかし───。
冷人「人間を襲わないだと?」
その言葉に冷人は怒りを覚え───。
おはぎを雫に投げ付けた。
「きゃあ!!」
優鬼「なっ…何するんだよ!!雫姉ちゃんに当たらなくても!」
冷人「お前たちは今まで人間を何人殺していた?人間を襲わないだと?今も目障りだと迫害を受けてる俺たち鬼を?今まで俺たち鬼は人間に殺され、江戸で起きた戦争で鬼や妖は減少し皆殺しにされているのだぞ!!」
冷人は優鬼の胸ぐらを掴まれ
優鬼「に、兄ちゃん…!冷たい…やめてっ…!」
掴まれた着物が凍っていく 冷人の鬼術だ。怒りのあまり優鬼の着物を貫いて皮膚に冷たい感触が当たる。
冷人「人間と仲良くするなど、無理な理想
貴様もだ!雫、お前は迫害から逃れ他所から来た貴様は正体隠して商売をしているのが気に食わん!!」
雫の髪を掴む。髪が凍てつく、頭が真っ白になるぐらい髪が凍ってゆく。
雫「…うっ!」
冷たい……痛いと叫んだら冷人の暴力が酷くなるだけだ───。毎日村に戻ってからそうだ、優鬼と一緒に虐げられる毎日だ。買ってきた土産を投げつけられて、暴力を振るわれて、酷いことを言われる───。
いくら人間が憎いとはいえ、人間と和平を望むなんて、この村の人は冷人に悪く言うあまり追い出そうとしない。今は我慢するしかない…。
優鬼「兄ちゃん…!離して…!」
冷人「いつも貴様らが気に食わんばかりだ!お前の姉が人間に殺されてから以降、村人共はいつまで出ないままだ!!」
段々凍り付く優鬼───。怒りが収まらない程に術は強くなってる。
冷人「正体は見抜かれた以上、殺されるだけだ!!何故正体を見抜かれた後、人間の町に出て商売をするっ!!”元戦争で出された”お前が!!!」
その時
老人の声が冷人を止めた。この村の村長だ
冷人「チッ……親父」
「冷人、いつまで拒絶しておる。雫はここに来てから数日経つのじゃ。お前だけ彼女を受け入れられんのは、転々としたからのじゃろ」
冷人「っ……ジジイも相変わらず人間と和平を結びたいのか。村の外は何も知らない癖によく言う老いぼれが」
「お前がそこまで拒絶するなら、この村を出ていってもいいだぞ?」
村長がそう言うと冷人は「…チッ」と舌打ちして優鬼と雫を離した。
冷人「親父も落ちたものだ……次は貴様も殺す」
乱暴に2人を離した後、去って行く。村長が仲介した後そうだ、この2人の親子仲はかなり酷く、父親の代になってから和平を望み争いを好まない村になったが、冷人だけはその父親の理想に否定していた。だから冷人は、人間に憎しみを抱き続けた。
「大丈夫か?」
雫「は、はい……」
「こんなに酷く傷を負って…全く冷人はなんてやつじゃ。」
優鬼と雫を手当てをしだした。同士に雫の髪についたおはぎを拭き取る
村人の噂通り、冷人は冷酷な性格で人間と仲良くする事態が許せなく彼だけは拒絶していた。それもそのはず、優鬼と雫だけでなく村人までも手を出していた。その一方で陰口を叩く村人もいたが、冷人に目を付けられると口出しを辞め、抵抗したら何されるか恐れてはいた。
「……雫、優鬼大丈夫か?」
雫「………はい。本当に何度もごめんなさい」
「しかし冷人は相変わらずじゃ。人間の事が憎くても村人まで手を出しおって」
冷人が去っていった方向を見る村長。自分の息子があんな冷酷で恐ろしく酷い態度を取るなんて見てられず、村人の大半は人間との和平を反対する鬼も居た為、彼岸霧村を出ていく鬼も次々と増えていった。
雫「……」
「そういや雫よ、帰ってから妙じゃが……”術師の匂い”がするのは気のせいか?」
雫「…え?」
「いや、なんでも無い お前さんの気のせいだと思うが」
“術師の匂い” 村長から聞いた言葉に雫は疑問になる。
今朝まで確か…”御守り”を肌身離さず持っていたはずなのに…私から術師の気配?
立ち去った冷人はその後、村の裏川に来ていた。
冷人「チッ…!あの老いぼれ、忌々しく庇っていやがって!!」
腹立たしく木を殴りつける。殴った一部に冷人の鬼術が木の表面に凍り付く。
(しかしあの女…今日の人間の匂いにしては…何か異様な気配がした…あれは術師か?術師にあの女はどう会った?またも見抜かれたのか?)
冷人も雫の気配に妙に感じ取っていた。
「ふんっ…まぁいいさ いずれあの女もこの村を出ていくのだろう」
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