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おもわす口ごもってしまうほど、艶かしく、怪しげな風情を漂わせる部屋で、波瑠は、卓に突っ伏していた。


「あーー!もおーー、だめ!退屈すぎるっ!」


「あっらー!波瑠ちゃん、そりゃー困るわ、あなた、今は、王妃なのよ?!」


黒色の袍《ほう》──、宦官の官衣を着る人物が、けたけた、笑いながら、茶器を差し出して来た。


「そんなこと言ったって、リンちゃーん!!座ってれば良いって、なんでも、かんでも、女官さん達が、やっちゃうんだもの!」


「もう、泣かないの!女の子でしょ?!」


「女の子と、泣かないのと、どう関係あるのよぉ!!」


やだぁよぉーーーー!と、波瑠は、くずった。


「まあ、それは、王様の前でするものよ、喜ぶわよ、きっと!」


リンちゃんったら、わかってないんだからっ、と、波瑠は、口をとがらせ、前に座り茶を啜っている宦官へ愚痴った。


「まあまあ、ともかく、今日の授業を始めましょう」


波瑠の前に書物が広げられる。


元々、文字が読めない波瑠には、その見たこともない形の羅列は、いっそう奇妙なものに思えた。


「リンちゃん、私、こんなの読めないよ」


「大丈夫、私が読んであげるから。そして、授業の時は、光琳《こうりん》先生、でしょ?」


「あっ」


そうだったと、波瑠は、チロリと舌をだす。


「はあー、だめよ、そんなことしたら。波瑠ちゃんは、王妃なんだから」


実のところ、ただの街娘に、王妃など勤まるわけがなく、波瑠の言動及び行動は、皆を驚かせていた。


医師は、頭を打った、そして、長期間眠っていた為、一時的に、このような事になっているのだろうと言い、まるで、人が変わったかのような王妃の行いにも、皆、一応の所、納得はしている。


「……でも、いつまでも、病、の、せいには、できないわよ!」


と、唯一、事情を知る、この宦官は、波瑠へ言った。


「わかってるよ!わかってるけどさー、いきなり、王妃なんて、無理でしょ!」


「無理じゃないっ!!」


波瑠へ、叱咤が飛ぶ。


「リンちゃん、じゃないや、光琳先生は、できたかもしれないよ。王妃に、なったわけじゃないもん」


ぐずぐず言いながら、波瑠は、俯いた。


そう、事情を知る、この宦官、光琳も、波瑠と同じく、気がつけば、光琳になっていた。つまり、別の場所から、意図せず、やって来た人物なのだ。


「あのねー、これでも、初めは、戸惑ったのよ。波瑠ちゃんみたいに、皆が庇ってくれる訳じゃないから」


光琳は、先生、らしく波瑠を、ビシッと指差し、


「じゃあ、取りあえず、この国の歴史。基本的な事、読み上げるから!」


しっかり聞くようにと念を押した。


「あー、それなら、知ってる」


波瑠は、つらつらと、琦《ぎ》国建国神話に始まり、清順王の誕生、即位、そして、領土を拡大していったことを、述べた。


「やだっ、できる子じゃないっ!!」


光琳は、驚きながら、波瑠を見る。


「ねぇ、波瑠ちゃん、どうして、そんなに詳しいの?」


光琳の質問に、波瑠は、不思議そうに、答えた。


「当たり前じゃない。侵略された国の民は、皆、琦《ぎ》国のモノになる。で、歴史から、叩き込まれるじゃない?」


えっ?!と、光琳は、叫ぶ。


「侵略って?モノって?」


「えっ?!光琳先生こそ何言ってるの?」


波瑠は光琳が、なぜ、慌てているのか、理解できなかった。


「ちょっと、待って。何か、重大な、行き違いがあるみたいね」


光琳は、波瑠をキッと、睨み付けた。


「ええっと……」


波瑠は、これでもかという、山のような質問に、圧倒されている。


光琳は、波瑠を質問攻めにしていた。


「なるほどねぇ。それで、陛下の寝首を……って、思い付いた訳ね?」


あー、ビックリ!と、光琳は、唖然とし、そして、静かに言った。


「まさか、千年先の世で、そんなにも、陛下が、悪者になってるとは……、けどね、歴史に干渉するのは、あまりよくないと思うの」


「……かんしょう……?」


聞きなれない言葉に、波瑠は、首を傾げた。


「つまり、その時、その場所で起こっていることに、従いなさいってこと。で、ないと、ここで、清順王が、波瑠ちゃんに、ブスッと、やられちゃったら……」


「琦《ぎ》国は、無くなるかもしれない!そして、自分たちの国を持てる!奴婢にならなくていいし、父さんだって、連れて行かれない!!」


バンっと、両手で卓を叩き、波瑠は、おもいっきり、立ち上がった。


「きゃー!波瑠ちゃん!だめよ!!!あなた、身重なんだからっ!!」


「身重??」


「そうよ!王妃様は、陛下のお子を身籠ってらっしゃるでしょ!」


「ん?!」


波瑠は、固まった。身籠ってるって……。


「そんなこと、聞いてないよーーーー!」


「聞いてないって、え?えええーーー!!!」


光琳は、珍しく、慌てた。


波瑠が答える、とんちんかんな事にも、まるっきり、動じないのに。


「ちょ、ちょっと、こ、これは、ちょっと、ちょっと、あーーー!!!」


「うん、リンちゃん、あーーーー!だよっっ!!!」


二人は、こくこく頷き合った。


「ま、まずは、ゆっくりと座って、お茶を、飲みなさい!」


光琳は、自分も茶を口にするが、茶器を持つ指先は、心なしか震えていた。


「……王妃様が目覚めて……様子がおかしい、って、騒ぎになった。そしたら、どうも、私の時と、同じなの。この場所に居る者達には、わけのわかんない事を言っていた。ここには無い、食べ物や、道具の名前を口ずさんでいる……」


これは、と、ピンときた光琳は、気分を落ち着かせるための教育係を願い出た。


願いは、あっさり通る。落ち着かせる教育とは、なんぞやと、誰も疑問に思わないほど、王妃の変容振りに、戸惑っていたのだ。


「うん、リンちゃんが、あなたは、誰なの?って、聞いてくれた時は、すごく嬉しかったっていうか、ほっとした」


「ええ、私もね、医師達の言うように、一時的なもの、だったらどうしようと思って、正直、迷ったわ。本物の王妃様、だったらやだなぁーって」


お高く止まって、わがままで、おまけに、王を、近寄らせない、手を焼く存在だったからだ。


「まあ、それでも、どうにか、懐妊されて、皆、内心ホッとした矢先、だから」


「え?王妃様と王様って……」


「ええ、王妃様のご実家、つまり、国通しは、敵対しているの。まあ、いくさにならないように、同盟……仲良くしましょうって、その証しとして、王様と王妃様は、結婚なさったのよ」


つまり、お互い、割りきりの、政略結婚。夫婦、と、言っても、今一つ、しっくりこないどころか、愛情の欠片もなく、仲は、非常に悪かった。


本来喜ぶべき、懐妊の兆しが現れた時も、王妃は、泣き叫び、癇癪を起こしたという。


「……え、そんなで、よく、身籠れたよね」


「あら、波瑠ちゃん、けっこう、おませさんじゃない!」


意地悪く笑う、光琳に、波瑠は、ち、違うってと、顔を赤らめ、ブンブン首を振った。


「ははは、冗談。そこのところは、義務、と、割りきって、お二人とも、かなり我慢されたみたいね」


ふぅーん、と、波瑠は、思う。そんな、結婚も、あるのだと、そして、王妃が嫌々身籠ってしまった、子供が、少し可哀想に思えていた。


「……だけど、王妃様は、嫌がってても、王様は、凄く喜んでいるみたい」


「そこ、そこなのよ!あり得ない事なのよ!」


光琳は、声を上げた。


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