家に帰るとリビングから夕飯の匂いが漂ってくる。
皆夕飯を食べていて、案の定私の分は無い。
(本当、子供みたいな嫌がらせ)
涼香「私カメラマン目指すから。それじゃ」
その場を立ち去ろとした時、バンッと箸を叩き付ける音と同時に母が椅子から立ち上がった。
母「……。」
暫くの沈黙のあと父が心配そうに口を開く。
父「お、お母さん?」
母「許さない…許さないわよそんな事!」
母の怒りに怯える祖父母と父。私は気にせず二階へ上がるが、その間にもリビングから聞こえる母の怒鳴り声。
母「あんなの私の娘じゃない!なんなのよー!!産まなければよかった!」
父「美里さん落ち着いて!」
母「落ち着けるわけないでしょ!」
(ヒステリックになってやんの)
部屋の鍵を掛け誰も入って来れないよう厳重に閉めた。
涼香「お母さんに寝首をかかれそうだからね」
数時間後、扉をノックする音がして警戒する。
父「お父さんだよ。開けてくれ」
開けるつもりなどさらさらない。扉越しから冷たく返事をする。
涼香「何?」
父「お母さんは今落ち着いてるよ」
涼香「だから何。私には関係無いじゃん」
父「弁護士を諦めないでくれ。お母さんは涼香の為を思って言ってくれてたんだよ。頼むから一言謝るだけでいいから!」
(どうして私が謝らないといけないんだ)
相変わらず父は母の肩を持つ。今家族に私の味方は誰一人いない。 母にもそ父にも腹が立つ。
涼香「お父さんって正直言うとお母さんの奴隷だよね 」
父「何を言うんだ!?」
涼香「じゃあ私の味方してくれたことある?お母さんに強く言えたことある?無いでしょ!!」
父「それは…」
図星だったのか何も言えないでいる父にさらに追い討ちを掛ける。
涼香「私の為を思ってるなら『産まなきゃ良かった』なんて言わないでしょ…」
父「それは言葉のあやで、お母さんも動転してたんだよきっと!頼むから出てきてお母さんに謝ってくれ!」
涼香「あんな子供の嫌がらせみたいな事しといてよく私に謝れなんて言えるね。 逆に謝罪して欲しいんだけど」
根負けしたのか父は下がって行った。
まだまだ言い足りないが寝てストレス発散することにした。
翌朝、私は事前にまとめた荷物を手に駄菓子屋へ出掛けようと靴を履いていると奥から母がやって来た。
母「家出のつもり?どこ行くの」
涼香「……。」
黙々と靴紐を結ぶ私が気に入らないのか母は強い口調で言う。
母「カメラマンなんて許さないから!あんな仕事の何がいいの」
涼香「好きな事して何が悪いの。ていうかまだ謝って貰って無いんだけど。娘にあんな嫌がらせしといて謝罪も無し?今どき謝罪出来ない大人っているんだ」
母は侮辱されたことに腹を立て顔を赤くしながら言った。
母「~~~~アンタなんて娘じゃないから!!この家から出てけ!!」
涼香「あんたにそんな事言える権限無いわ!この家の所有者はおじいちゃんなんだよ!あんたの家じゃ無い!」
母「どうせ皆私には逆らえないんだから私の物になったって何も言えないわよ」
完全に開き直った母は何も言えない祖父母達を手玉にとることも容易いと息巻いていた。
涼香「あんたを親だと思った事なんて無い。私は好きなように生きるから」
玄関のドアノブに手を掛けた瞬間父がリビングから出てきて私の腕を掴む。
祖父「行かないでくれ涼香ー!」
祖父は涙で顔をビシャビシャにしながら私を強く引き止める。
母「どういうおつもりですかお義父さん?!」
祖父「お前!アレを涼香に! 」
祖母「涼香コレを。私達は涼香の夢を応援してるよ。それはこの家を出てから開けてね
手渡されたのは風呂敷に包まれた薄く四角い何かだった。
祖母「そして、今まで助けられなくてごめんなさい」
涼香「おばあちゃん…」
母「何ですかそれ!?涼香渡しなさい!!」
私からソレを奪おうと迫って来る母を祖父が必死に羽交い締めにする。
母「離して!!涼香!お母さんの言うことが聞けないの!!ソレを渡せって言ってんでしょうが!!」
祖父だけでは抑えられず祖母も加勢して母を止める。
祖父「涼香!!行けー!強く好きなように生きろー! 」
祖母「涼香行きなさい!!」
涼香「、、、!!」
玄関の扉を開け放ち私は勢い良く飛び出した。
(ありがとうおじいちゃん、おばあちゃん!!)
キャリーケースを引きながら私は駄菓子屋へと走り続けた。
店前には店主が掃き掃除をしており、私に気付いて手を振る。
店主「どうしたね、そんなに慌てて。その荷物はなんだい?」
涼香「はぁー…はぁー……っ!
家を出てきました。これから夏休みが終わるまでの間ここに泊まっても…いいですか?」
私の顔を見て微笑みながら許してくれた。
店主「いいよ。どうせあたし一人だし、また店手伝ってくれるかい?」
涼香「はい!!ありがとうございます!!」
祖父母との別れの寂しさや受け入れてもらえる嬉しさで涙が溢れて止まらない。
この恩はきっと一生忘れないだろう。
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