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夜が深まるにつれ、街は静寂に包まれ、時折聞こえる遠くの車の音さえもどこか異質に感じられた。美咲は自室の窓からぼんやりと外を見つめていた。心には重い不安が渦巻いていた。健太をはじめ、アプリに取り込まれた生徒たちのことが頭から離れない。
「どうすれば、みんなを助けられるんだろう…」
その時、思わず投げ捨てたスマホのことが、ふと頭に浮かんだ。あのスマホを捨てた瞬間、痛みは消えたが、何かが引き裂かれたような違和感が残っていた。何か見逃している――そんな気がしてならなかった。
「捨てたスマホ…あれはあそこにあるのかな…」
美咲は急に不安に駆られ、身震いした。スマホを手放しても、アプリが消えたわけではない。もし誰かがそれを拾ってしまったら?
「確かめに行かなきゃ…」
決心した美咲はパーカーを羽織り、飛び出した。夜の街を駆け抜け、スマホを捨てた公園へと向かう。足音がアスファルトに響く中、美咲の心は急速に焦りと恐怖で満たされていく。
公園にたどり着いた美咲は、かすかな月明かりを頼りに捨てた場所を探した。周りには誰もいない。夜風が木々を揺らし、かすかな葉擦れの音が耳をくすぐる。
「あれ…どこに…」
美咲がスマホを捨てたはずのベンチの近くを何度も見回すが、そこには何もない。スマホが消えている。まるで最初からそこに存在しなかったかのように。
「おかしい…確かにここに捨てたのに…」
その時、不意に背後からかすかな音が聞こえた。振り返ると、暗がりの中に何かが光っているのが見えた。美咲は身を震わせ、慎重に近づいていく。近づくにつれ、光は少しずつ強くなり、それがスマホの画面の光であることに気づいた。
「まさか…」
スマホは、確かに捨てたはずの場所にはなかった。だが、何者かによって拾われ、今、美咲の目の前に現れていたのだ。恐る恐る手を伸ばし、そのスマホを拾い上げた。画面には、冷たい青白い光が漂っていた。
「次の善行を行ってください」
またもやその言葉。健在だ。美咲は身震いしながら、スマホを手に取ったまま周囲を見回した。何者かがスマホを拾い、再びここに置いたのか?それともアプリが、意志を持って美咲の元に戻ってきたのだろうか?
だが、次の瞬間、美咲の体は一瞬固まった。スマホの画面が突然変わり、画面に彼女の姿が映し出されていた。そこには、美咲がさっきまで窓から見下ろしていた自室が映し出されていたのだ。誰かが美咲の部屋の外から撮影している――。
「嘘…でしょ…?」
息を飲んだ美咲は、スマホの画面から目を離せなかった。その映像は、確実にリアルタイムで撮影されたものだ。誰かが美咲の家に忍び込んでいるのか?それとも、もっと恐ろしい何かが起こっているのか?
そして、映像の中で突然、何かが動いた。美咲の部屋のドアがゆっくりと開き、誰かが中に入っていく影が映った。それは、暗いシルエットしか見えなかったが、明らかに人間の姿だった。
「誰…なの…?」
美咲は思わず声を上げたが、その瞬間、スマホが熱くなり、手から滑り落ちた。地面にぶつかる音と共に、スマホの画面は真っ暗になった。
「こんな…こんなの、現実じゃない…!」
恐怖で震える美咲は、その場から立ち去ろうとしたが、足が震えて動けない。心臓は爆発しそうなほど鼓動を打ち、全身に冷や汗が流れる。
「次の善行を行ってください…」という声が、今度は彼女の耳元で囁かれるように響いた。スマホが再び光を放ち、その声が何度も何度も彼女の頭の中で反響した。
「善行…行わなければ…」
美咲の意識が薄れていく中、彼女は恐る恐るスマホに手を伸ばした。
「善行を行えば、すべてが終わる…」