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スターデンメイアに戻ったユーヤと私達は、魔王討伐の為に魔族領へ進軍を開始した。
私達は少しずつ魔族の勢力範囲を削り取りながら、徐々に魔王のいる拠点を目指している。ユーヤの力があれば魔族どもを蹴散らして、一直線に魔王を目指して葬る手もあったはずなのにだ。
だけど、ユーヤ自身が確実に一歩ずつ進む方を支持した。
「意外だったわ。速攻で魔王を討伐しに行くと思ったのに」
「それじゃあ魔族を残して禍根を残すだろ。後の復興にも影響しそうだし、最終的にはこの方が決着が早いし確実だ」
そんな決断をしたということは、ユーヤはこの世界に残る選択をしたのね。
それは全て彼女の為の決断…
彼女の……同じ女性でも見惚れてしまいそうな美しい尼僧の姿が頭に浮かび、私の胸はチクリと痛む。
もういい加減にユーヤへの想いを断ち切らないといけないのに……
魔族領内に進軍を始めてから私達は以前の様に3人一緒で戦い続けた。
それにしてもやはりユーヤは頼りになる戦力だ。
私達だけでは攻めあぐねていた魔族領を彼が参戦しただけでやすやすと攻略していっている。
「ユーヤは本当に凄いのね」
「まあ、その為の力を授けられたわけだからな」
それは召喚によってユーヤが得た勇者の力。
その勇者という単語に美しい金髪の尼僧の姿が脳裏に浮かんだ。
彼女の言うように私はどこかでユーヤを『勇者』として見てしまっていたのだろうか。
「彼女……シスター・ミレだったかしら?」
ぼんやりと彼女の事を考えていたら、意識せず彼女の名前が私の口を衝いて出た。
「ミレ?」
思わず漏れた呟きだったけれど、ユーヤの耳に拾われてしまい、もう引っ込めることもできず私は疑問に思っていた事を訪ねた。
「彼女の聖女としての能力はかなり高いときいたけど……」
「そうだな。俺が今まで出会った聖女よりは強いな」
「ユーヤはどうして彼女を連れてこなかったの?」
話に聞く彼女の力が本当なら、ユーヤの足を引っ張るものではないはず。
一緒に連れて来てもなんら問題はなかった。
「彼女と片時も傍を離れたくなかったんじゃないかなって……」
「それがミレの意思だからだ」
意思?
戦場へは行きたくないということ?
それとも……
「悪役令嬢って知っているか」
「何それ?」
「彼女が追放された理由さ」
彼女の追放の原因となったエリー・マルシアにより割り振られた『役』。
それによって冤罪を被せられた彼女は辺境へと追放されたらしい。
「ミレはその役割としてあの地に追放された。それは彼女の意思ではなかっただろう。もしかしたら、それが運命だったのかもしれない」
「そんな馬鹿げた運命に彼女は翻弄されたと?」
「そうだな馬鹿げている。それによってミレの人生は狂わされたが、それでも彼女はリアフローデンで精一杯生きている。そして、それは彼女の意思だ」
聞けば彼女は王都へ招聘されたのも断ったらしい。
追放されたのが運命によるものなら、追放先で生きているのは彼女の意思。
「ミレは真に強い女性だ。彼女のリアフローデンを守ろうとする強い意思に俺も気づかされたんだ」
「ユーヤが戦うのはユーヤの意思だということ?」
力強く頷くユーヤ。
「俺は勇者として召喚され、この戦いの場にいるのも勇者としての運命なのかもしれない。だが、この戦場で俺は勇者ではなく『俺』として戦っている」
その言葉に私ははっきりと理解した。
やはりユーヤと彼女の間にはもう入り込む余地はないのだと……
それからユーヤやゴーガンと一緒になって戦い続け、魔王の拠点近くまで来た時には既に5年が過ぎていた。
もう魔族領内の殆どの『魔族』は駆逐した。残すのは『魔王』の側に集結している奴らだけ。
「済まないな付き合わせてしまって……」
「何言ってんだ。俺達はいつも3人で戦ってきただろ」
「そうよ。付いて来るなと言われても従うつもりはないんだからね」
私達3人は魔王が鎮座していると思われる居城の前に来ていた。本隊を囮として魔族の軍勢を引き付けている内に私達が魔王を討伐して、統率者を失って混乱するであろう魔族を一気に駆逐するのが本作戦である。
目の前の城からは今まで感じてきたどの魔族のものよりも禍々しい『魔』の気配を感じる。間違いなくここに魔王がいる。
「スターデンメイアに来てから俺と一緒に戦ってくれた2人には感謝している」
「よせよ。元は俺達の戦いなんだからな」
「そうよ。感謝するのは私達の方よ」
私は目の前のユーヤに対して失恋してしまったけれど、逆に戦いの中での信頼関係は強くなったように思えた。たぶん心の整理がついて吹っ切れたんだと思う。今では私にとってユーヤは長年一緒に戦ってきた大事な戦友。
きっとこれで良かったのだ。
だって私には……
私は隣をチラリと盗み見た。
そこに立つのはユーヤ以上に長い時間を一緒に戦ってきた青い髪。
「さあ行くぞ!」
ユーヤの掛け声に私とゴーガンは力強く頷いた。
「絶対に俺達が勝つ!」
「ええ、これで終わりにしましょう!」