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あれから二年近く経った。鈍い俺でも自分が一体何者なのか今では理解している。石川は〈紅玉組〉という組の若頭だった。俺は構成員としてスカウトされたのだ。〈紅玉組〉は古くからある組のようだったが、今では神奈川の大きな勢力の四次団体だったか五次団体だったかにしてもらったらしい。それも石川の功績らしいが。
〈紅玉組〉には昔から親父の右腕がいたらしいが、怪我をしてヤクザを引退したらしい。その人の下についていたのが春日さんと井上さんだ。だが石川のほうが能力があったため二人の上になったそうだ。石川は自分の直の下が欲しかったし、春日さんと井上さんはどう石川に接したらいいか分からなかった。それで俺がいい緩衝材だったらしい。
若者組三人は中学卒業したばかりだったというから驚きだ。いわゆる〈部屋住み〉ってヤツらしいのだが、そんなことやってるところは今ではほとんどないと聞いた。けれど三人は帰るところがなかった。いや、正確には実家はある。だがとても帰れる家じゃなかったってだけだ。家にいたら暴力を受ける、食いもんがない、借金取りが来る。それなら組の事務所に寝泊まりしたほうがマシだった。ヤクザの組事務所のほうが居心地がいいってどんなところに暮らしてたんだろうな。それで親父と春日さんが住んでもいいって許可したらしい。それまでは井上さんが住んでたようだったから、ここではわりと普通なのかもしれない。
俺がやっていた仕事は許可証を作る仕事じゃなくて、偽許可証を作る仕事だった。流石に健康保険証を作るってところで気がついた。役所がこんな小規模なところに頼むわけがない。だからといって今さらどうこう出来るわけじゃない。俺は作業場に住んでいたし、カネもきちんと貰えてる。偽でもなんでも需要があるってことは作る側も必要ってことだ。必要なものなら俺がやめても他のところに回るだけだ。だったら俺でいいじゃないか。