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一度石川が「奢ってくれるっていうから飯食いに行こうぜ」と言った。誰が? と思ったが石川はその時はまだ何も教えてはくれなかった。わざわざ中華街に出掛けて行った。賑やかな大通りから裏路地に入った店に入った。裏路地のほうが美味しい店が多いって聞いたけどどうなんだろうな。石川は知っている店みたいで、女将と思われる人が店に入るとすぐに二階へ続く階段を見ながら顎でしゃくった。二階へ行けってことなんだろう。一階にはお客さんがまばらだった。これから混み出すんだろうか。

二階に上がると爺さんが一人で拉麺を啜っていた。俺たちは少し離れた席に座った。

「なに食いたい?」石川はメニュー表を俺に渡すとそう言った。石川はもう決まっているようだった。俺は漢字が並ぶメニュー表をじっと見た。

「五目あんかけ拉麺か生碼麺かな」

「なんでそれ? ここはフカヒレの姿煮拉麺一択だろ?」

「そんな食べたことないヤツなんて怖くて頼めないよ」

「奢りだぞ? フカヒレにしとけ」

「うーん。やっぱり五目あんかけにする。それから餃子」

俺がそういうと石川は呆れたように俺を見た。そして「餃子でも炒飯でもなんでも食え」と言った。

注文したものはすぐにやってきた。石川はフカヒレを「美味い美味い」と言って食べていたけど。俺はそれより野菜も魚介も肉も入ってる五目のほうがお得な気がするけど。俺たちは他に餃子と海老炒飯を注文した。全て美味かった。中華街にはいろんな店があるっていうけど、ここの店はアタリだと思う。

俺たちが食べ終わると二階には誰もいなかった。爺さんは帰ったらしい、気がつかなかったけど。そう言えば奢りっていうから誰か一緒なのかと思ったけど、誰も来なかったな。石川とそのまま階下に降りる。レジには女将が立っていた。石川はその前に立った。

「お代は貰ってるよ。これからもよろしくって伝えてくれって」女将は愛想なくそう言った。石川は礼を言うと店を出た。

石川は機嫌よく歩きだした。誰に奢って貰ったんだろうか?

「合格だってさ」石川は振り返って急にそう言った。合格?

「二階に爺さんが一人座ってたろ? あの人は中国人街の顔役なんだ。俺に仕事を回してくれるのも殆どあの人。実際に作ってる奴の顔を見たいって言うからさ、碧を連れて来たってわけ」

うん? どういうことだ?

「碧がどんな奴か知りたかったらしい。けっこう慎重なんだ。まあそりゃそうだよな、日本にやって来る中国人は大抵困ったらあの人頼っていくし」

「ああ、中華街の偉い人なんだ?」

俺がそう言うと石川は首を振った。

「だから違うって。“中華街“じゃなくて“中国人街“。中国人がみんな中華街で働いてるわけじゃないだろ?」

そりゃそうだ。だとしたらとても偉い人なんじゃなかろうか。

「そう。あの人めちゃ凄い人だよ。困ってあの人のところに相談に行ったら、電話一本で解決できたって話はいくつも聞いたからな。だから碧には言わなかった。緊張するだろ?」

まあ、確かに。それだと料理の味は分からなかったかもしれない。

「顔を見たかっただけみたいだから。それで納得したんだから安いモンだろ?」

それだけ言うと石川はまた上機嫌で歩き出した。というか石川はそんな凄い人とどこで知り合ってるんだろうな。


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