テラーノベル
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「…………俺にはドイツ留学時からの恋人がいた。相手は、この前のハヤマの創業記念パーティに出席した時に遭遇した、ピアニストの島野レナだ」
「ああ! やっぱりそうなんだ!」
侑の深刻そうな口調に相反し、瑠衣は答えが合ってた、と言わんばかりに目を細めながら話している。
「…………お前、何か楽しそうだな」
侑がまたも瑠衣に鋭利なナイフのような視線を投げてくるが、構わずに彼女は面白そうに答える。
「だって、あの時先生、レナって呼び捨てにしてたし、実は彼女なのかな? って思ってたんですよねぇ」
「…………まぁ、あのパーティの時は、既に別れてたが。別れてなければ、恐らく俺は彼女と結婚していたかもしれんな」
「何で別れちゃったんですか?」
「…………俺が帰国する一週間くらい前だったか。俺がいない間に男を連れ込んでセックスしてたのを見てしまったからだ」
「うわぁ……」
「…………相手の男はオーストリア人トランペット奏者。俺もコンクールで一緒になった事があるヤツだ。行為の途中で俺は部屋に入っていき、その場でレナに別れを告げた。それが今年の六月下旬くらいの事だ」
「…………修羅場展開……」
「…………お前なぁ、いちいち反応するな」
瑠衣は、侑が彼女の言動にムッとしながらも、釣られて話しているようにも見えた。
(先生の恋バナ…………かなり貴重かも。でもやっぱり、私の予想通りだったか。一度裏切ったら即お別れっていうのは当たりだったみたい……)
そう思った瞬間、瑠衣は無意識に表情を灰色に濁らせていた。
「…………お前、さっきまで人の話を面白そうに聞いていたのに、今度はどうした?」
さすがは師匠、人の様子を目敏く見ている、と彼女は侑の観察力に舌を巻く。
「いっ……いえ、何でもありません、どうぞ続きをお話し下さい」
侑が呆れたようにフンッと鼻で笑うと、貴重な恋バナを聞き漏らさないように、瑠衣は耳を傾けた。
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