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「だから!私が表紙を飾るのよっ!」


悦に浸り芳子が叫ぶ。


「いえ、先程からお話が湾曲しておりますな。男爵夫人。あのですね、私どもの、雑誌にも、あーー!と一声発しているところのお写真が頂けますかねぇというお願いなのでありまして、表紙を飾るかどうかはさて」


野口が即座に、芳子の言い分を否定した。


「……つまり、義姉上の唄っている姿の写真が欲しいと……」


岩崎は、ちらりと、芳子を見る。


不服そうな顔をした芳子は、野口へ、いまいましそうに視線を向けている。おそらく、自分の話の腰を折るようなことをしたからだろう。場にいる皆は、内心、笑いをこらえつつ、どういうことかと耳を傾け続けた。


「あー、その、朝刊を拝見しまして、これは、えらいことだと、そうゆう次第で」


音楽学校の発表会とかこつけ、新聞では、結局、お咲に芳子に岩崎の活躍が豊富な写真で紹介された。


それに野口が目をつけた。正しくは、芳子のドレス姿にだが。野口は婦人雑誌向けの記事になると思ったようだ。


「男爵夫人のドレス姿は、読者に夢を与える。他の雑誌に先を越されないように、朝早くから申し訳ないのですが、男爵家へ押し掛けた次第であります」


野口の説明に、そうゆうことだったのかと、芳子が、雑誌に掲載という言葉に舞い上がり、表紙を飾ると思い込んだだけだと、岩崎も納得したのだが、ん?と、呟き考え込んだ。


「……で、どうして、我が家に?必要なのは、義姉上様の写真でしょ?なぜ、婦人雑誌の編集者と二人揃って我が家に?」


「京介さん!当たり前じゃない!」


「そうですよ!当たり前の話ではないですか?!」


芳子、野口が、口を揃えて岩崎へ意見する。


妙な迫力に、岩崎は、またもや腰が引けた。


月子含め、その場にいる者も疑問に思う。ついでに、酔いが抜けていない二代目も


「そりゃー、なんか、おかしくないかい?さすがに、今回は京さんに賛同する!」


酒臭い息を吐き、気分が悪いのか顔を歪めながら言っている。


「あー、しかし、ですが、これが、婦人雑誌ですよ?ほどほど見映えの良い男性が、一心不乱に演奏し、加えてドレス姿の男爵夫人と唄っている訳ですよー?必要でしょ?」


野口が、何を当然のことをとばかりに、少々呆れて言った。


「ほどほど見映え、って……」


ぶっとお龍が吹き出す。


「雑誌購買層は、ほどほど食いつくと思うのです」


野口は、自信ありげに頷いている。


「ほどほど食いつくって……肉かよっ」


二代目がぼやき、寅吉も、ほどほど尽くしかと呟いた。


そして、野口の言いようが、気に入らないのは、岩崎ではなく……。


「おじちゃん!お咲、桃太郎唄った!新聞のった!」


お咲が、自分はどうなると野口へ抗議した。


「おや!たどたどしくも、なかなか口が立つお嬢ちゃんで。あぁ、確かに唄っている写真がのっておりましたねぇ」


「そんなら、この口が立つお嬢ちゃんもなんとかしてやれよっ!!」


「ですが、酒臭いお兄さん、婦人雑誌ですからねぇー」


「俺の酒は、関係ねぇーだろー!少女雑誌とかあるだろうがぁっ!はたまた、そのまま、婦人雑誌に載っけてみろっ!母親が、あらまっ!って、子供に小唄を教えようとか思うだろっ!小唄の師匠はそんで儲けられるたろうがっ!」


世の中への還元ってものを考えろとかなんとか、二代目は負けていない。


「いい加減にしろっ!!ほどほど見た目がいいとか、小唄の師匠が儲けるとか、風が吹いた訳じゃなかろうがっ!!」


岩崎が、ついに我慢ならんと叫んだ。


当然、芳子は、ひいひい言いながら耳をふさいでいる。


「なあ?かかあよ、何で風なんだ?誰か風邪ひいてんのか?」


「うーん、多分、風が吹けば桶屋が儲かるって事を引っかけてるんじゃないかと思うけど?月子ちゃん、どうなんだい?」


「えっ?!」


お龍からいきなり振られた月子は、戸惑う。


「もう、なんでもよかろう!とにかく、いい加減にしてくれ!こっちは祝言を控えてるんだっ!」


「えっえっ?!」


岩崎の牽制に、芳子も戸惑うが……。


「そうだわっ!野口さん!祝言なの!そうそう!そちらも写真お願いできる?!」


「あっ、本日、これから、挙式ということで?!ああ、それは、本日はお日柄もよくおめでとうございます」


などと、話はおかしな方向へ進んで行く。


「……なんだか、もう一人手強いのがでてきたねぇ」


どうにもならない、芳子と野口のやり取りに、お龍が息をついた。

麗しの君に。大正イノセント・ストーリー

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