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「俺と岡崎は、言い方が悪いが、もう上司と部下ではない。だが、今日、同伴をすると決めた時に、いちファンとして、君にHearty Beautyの服を着て欲しいと思ったんだ」
「…………」
優子は言葉を失っている。
けれど、ブランド名に傷を付けたにも関わらず、かつての上司は彼女に、もったいないほどの言葉をくれた。
「いっ……いいんですか?」
「もちろん。岡崎に、このロイヤルブルーは似合うと思うし」
廉は少しの間を置いた後、勇気を出すかのように、ハァッと短く息をつく。
「今…………着てくれないか?」
穏やかな声音と彼女を包む、彼の眼差し。
「今……ですか?」
「ああ」
ソファーの上に乗せられた服を、じっと見下ろしている優子。
「…………分かりました。ベッドルームで着替えてきますね」
廉の温かい言葉を受け止めつつ、優子は逡巡した後、おずおずと鮮やかな青のセットアップを拾い上げる。
(私が、この服を着ても……いいのかな。でも、専務のご要望だし……)
腹を括り、フゥッと大きく息を吐き出すと、ベッドルームに向かった。
約二年振りに、かつての職場の服に袖を通す優子は、どことなく緊張しているのか、手が震えている。
ファスナーのツマミを持つ指先が小さく震え、おぼつかない。
(でも……着心地の良さは…………全然変わらないなぁ)
心も身体も穢れた今の自分には、Hearty Beautyのブランドコンセプト『心の美しさと女性の美しさを解き放つ』なんて、全く似合わない。
着替え終わった優子は、クローゼットの横にある全身鏡で、自身を映し出してみる。
(私が着るっていうよりも……セットアップに着られている感じじゃない?)
コットンリネンの素材は、今の時期には快適に着られる。
ロイヤルブルーの深い色合いも、夏らしくも爽やかな雰囲気。
「専務のリクエストに応えて、お披露目しなきゃね……」
優子は、ベッドルームのドアノブに手を掛け、ゆっくりと開けた。
「あの……専務……」
彼女がソファーでくつろいでいる廉の元へ、ゆっくりと歩み寄ると、彼は奥二重の瞳を微かに丸くさせた。
「岡崎……」