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女装男子は恋したい2
待ち合わせのカフェ前。
ウィッグも完璧。
メイクも完璧。
スカートも揺れてる。
“ありさ”は今日も完璧な女の子。
「ありさちゃん!」
手を振る佐野。
笑顔が眩しい。
「今日も可愛いね」
その一言で心臓が跳ねる。
(だめ、落ち着け)
「ありがと」
高めの声で返す。
ちゃんと“女の子”。
⸻
カフェのソファ席。
向かい合って座る。
佐野が頬杖をついてじっと見てくる。
「な、なに?」
「いや」
にこっと笑う。
「ほんとに可愛いなって」
胸がぎゅっとなる。
嬉しい。
でも、苦しい。
(それ、俺じゃない)
「目、綺麗だよね」
さらっと言われる。
思わず視線を逸らす。
「そんなことないよ」
「あるよ」
テーブル越しに、そっと手が伸びる。
指先が触れる。
びくっと反応してしまう。
「冷たい」
「え」
「緊張してる?」
図星。
「してないよ?」
少し声が上ずる。
佐野がくすっと笑う。
「嘘」
近い。
テーブル越しなのに距離が近い。
「俺のこと、そんな怖い?」
「こ、怖くない」
本当は。
好きになりそうで怖い。
「ありさちゃんってさ」
急に少し真面目な顔。
「たまに寂しそうな目するよね」
心臓が止まりかける。
「え?」
「今も」
見抜かれそう。
やばい。
「そんなことないよ」
笑う。
完璧な“女の子”の笑顔。
でも佐野は、少しだけ首を傾げる。
「そっか」
それ以上は言わない。
でも。
帰り道。
人通りの少ない道。
佐野が自然に手を繋ぐ。
「……っ」
「嫌?」
「嫌じゃない」
本当は嬉しい。
ポケットに入れられる手。
あったかい。
「ありさちゃんさ」
少し低い声。
「無理してない?」
どくん。
「してないよ」
即答。
でも、ほんの一瞬遅れた。
佐野はそれを見逃さない。
でも追い詰めない。
ただ、少しだけ握る力が強くなる。
「俺といる時くらい、素でいていいのに」
その言葉が刺さる。
(素って、どっち)
女の子の“ありさ”?
男の“柔太朗”?
苦しい。
でも。
「俺さ」
佐野がぽつり。
「ありさちゃんがどんな子でも、多分好きになる」
一瞬、呼吸が止まる。
「どんなって?」
「今見えてる部分だけじゃなくて」
まっすぐ。
「ちゃんと中身で」
その優しさが、一番残酷。
だって。
本当の自分はまだ見せてない。
手は繋がったまま。
でも心は揺れてる。
3回目のデート
「ポップコーンどっち味にする?」
「キャラメル」
即答。
「甘党じゃん」
「ありさちゃんの前だけ」
さらっと言うな。
チケットを受け取って、薄暗いシアターへ。
席は後ろの方。
人はそこそこいる。
上映が始まる。
画面が明るくなって、音が響く。
最初はちゃんと映画を見てた。
でも——
ふと、隣の気配を強く感じる。
肘掛け。
距離が近い。
腕が、ほぼ触れそう。
どきどき。
(落ち着け)
映画の中のラブシーン。
ちょっと静かな空気。
その瞬間。
肘に、指が触れる。
びくっ。
横を見ると、佐野が前を向いたまま、小さく言う。
「嫌だった?」
声は小さい。
映画の音に紛れる。
「……嫌じゃない」
言った瞬間、指がそっと絡む。
完全に、恋人繋ぎ。
暗闇の中。
誰にも見えない。
でも心臓は爆音。
佐野は画面を見たまま。
でも、親指がゆっくり動く。
撫でるみたいに。
(無理、心臓壊れる)
「緊張してる?」
また小声。
「してない」
嘘。
手、汗かいてないかな。
佐野が少しだけ握る力を強くする。
安心させるみたいに。
「映画より、手の方が集中できない」
ぼそっと。
「同じ」
思わず本音。
その一言で、佐野が少しだけ笑う。
暗闇だから、表情は見えない。
でも空気でわかる。
嬉しそう。
中盤。
少し怖いシーン。
思わず体がびくっとする。
その瞬間、肩に腕が回る。
軽く。
守るみたいに。
「大丈夫?」
耳元に近い声。
距離、近すぎる。
「……大丈夫」
でも、離れないでほしい。
映画の光が顔を照らす。
佐野がちらっとこっちを見る。
その視線が優しい。
手は繋いだまま。
肩も触れたまま。
映画が終わる。
明かりがつく。
ぱっと手が離れる。
少し名残惜しい。
立ち上がると、佐野がにやっとする。
「ありさちゃん」
「なに」
「手、離すの遅かったよね」
図星。
「気のせい」
「可愛すぎ」
またそれ。
でも今日は、少しだけ素に近い笑いが出る。
「……佐野くんも」
「ん?」
「握るの、優しかった」
一瞬、佐野が止まる。
それから、柔らかく笑う。
「彼氏っぽい?」
心臓が跳ねる。
まだレンタル。
なのに。
「っ……」
何も言えない。
でも、また自然に手を繋がれる。
今度は、外でも。
「次さ」
佐野が言う。
「もっと長い映画観よ」
「なんで」
「その方が、長く手繋げる」
ずるい。
甘い。
そしてまだ——
バレてない。
映画館を出て、夜のショッピングモール。
さっきまで繋いでた手。
人が増えたから自然に離れる。
でも距離は近い。
「映画どうだった?」
「よかった」
素の声に近い。
しまった、と思った瞬間。
佐野がちらっと見る。
「今の声」
どくん。
「え?」
「ちょっと低かった」
心臓、爆音。
「映画の余韻で」
苦しい言い訳。
佐野は少し笑う。
でも目は観察してる。
「ありさちゃんってさ」
歩きながら言う。
「たまにスイッチ切れるよね」
「スイッチ?」
「うん。なんか急に素っぽい」
息が詰まる。
そのとき——
エスカレーターでバランスを崩す人にぶつかられる。
とっさに、低い声が出る。
「危なっ」
完全に地声。
やばい。
空気が止まる。
佐野がゆっくり振り向く。
目が合う。
一瞬の沈黙。
「……今の」
喉が乾く。
「びっくりしたから」
声を高く戻す。
遅い。
佐野は何も言わない。
でも、じっと見る。
優しいけど、確かめる目。
「喉、調子悪い?」
逃げ道をくれる言い方。
「うん、ちょっと」
佐野が一歩近づく。
人混みの中なのに、そこだけ静か。
「無理してない?」
またそれ。
心臓が痛い。
「してない」
「ほんとに?」
低い声。
映画館より近い距離。
手がそっと握られる。
「俺の前で、そんなに頑張らなくていいよ」
胸がぎゅっとなる。
ばれてる?
いや、まだ。
でも気づきかけてる。
そのとき——
ふと、ウィッグのピンが緩む。
頭が少し軽くなる感覚。
最悪。
(やばい)
佐野が視線を上げる。
髪。
ほんの一瞬、浮く。
「……?」
手が、反射的に髪にいく。
押さえる。
「どうした?」
「なんでもない」
でも、目が合う。
佐野の目が、ほんの少しだけ鋭くなる。
違和感を掴みかけた目。
でも。
次の瞬間、柔らかく笑う。
「風強いね」
助けてくれた。
完全に。
胸が苦しくなる。
なんでそんな優しいの。
エスカレーターを降りたあと、
佐野がぽつり。
「ありさちゃん」
「なに」
「俺さ」
少し間。
「隠し事されるの、嫌いじゃない」
心臓停止。
「え?」
「いつか言ってくれるなら」
まっすぐな目。
「待てる」
完全に気づいてるわけじゃない。
でも。
“何かある”ってわかってる。
そして責めない。
それが一番きつい。
手は繋がったまま。
でも罪悪感が強くなる。
コメント
1件
佐野さんにこんな事されたらそりゃ惚れるわぁ、💗てか、書くの爆裂上手くないですか⁉️