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砦の前には、隣国マッキノンの王軍が砦を囲むように並んで待ち構えていた。

見た感じ、数では負けている気がする。


しばらく、お互いを睨むだけの静寂な時間が流れる。

まだ、太陽は雲に隠れてはいない。

天は砦の者の味方であると信じたい。


そんな時、一羽の鳥が両軍の間に降り立った。

その鳥が飛び立つのを両軍が見守り、ひたすら待つ。

そして、その時はきた。


鳥が飛び立つのが合図のように開戦となった。



剣と剣が交わる金属音。

怒号に馬や人間の悲鳴、舞う砂埃。


シャンディも必死で剣を振る。

1秒たりとも気が抜けない。

一瞬でも気を抜けば、待つのは死だ。


圧倒的な実力で少しずつ砦の者たちがマッキノンの王軍を追い詰めていく。


そして、とうとう厳しい戦況に絶望した王軍の兵が逃げ出し始め、バラバラと崩壊しはじめた。


マッキノンの王の周辺が手薄になった好機を師匠であるシャムロックが逃すはずがなく、王の前に立った。


「マッキノン王、また会ったな」

「また、お前か。久しいな」

「俺のような者を覚えて頂いていたとは光栄だ」


ふたりは何度も何度も戦場で会っているんだろう。

なんだか、旧友に会ったかのようでお互い嬉しそうだ。


周辺で戦っていた者も戦うのを止めて、2人のやり取りに固唾を呑む。


シャムロックとマッキノン王が激しく剣を交わし出した。


互角だ。


ジリジリと剣越しに睨み合うふたり。

シャムロックが陛下から賜った大剣に力を込めるかのように一瞬剣に祈り、空を切り裂くような音ともに、マッキノン王に振りかかった。


シャムロックの剣の勢いがあまりにも強く、防ごうとしたマッキノン王の剣がその衝撃に耐え切ることができずに折れた。

その弾みでマッキノン王が勢いよく地面に背中から倒れた。


「くそっ、ここまでか」


それでも戦鬪狂の瞳から灯が消えることはない。

嫌な予感がした。


マッキノン王は折れた剣を捨て、転がった側に落ちていた剣を手に取り、勢いよく起き上がった。

近くで、側近らしい人がマッキノン王にもう戦いを辞めようと進言したところ、突進したかと思うとあっさりその人を斬った。


これが戦鬪狂だ。


目の当たりにした戦鬪狂は本当に狂っていた。

敵味方構わずに斬りかかりだし、近くにいた者が一斉に逃げ出す。


騒然とする中、師匠のシャムロックと目が合った。

わたしもシャムロックもマッキノン王に向かって走り出した。


わたしは剣をギュッと握りしめて、勢いよく飛びかかる。

マッキノン王に上手くからだをよじられて剣をかわされ、空振りに終わりマッキノン王の側に不覚にも転げた。


直ぐに起き上がれず、マッキノン王に束ねていた髪の毛を力の限りで掴まれた。


「このやけに光る黄色の髪が鬱陶しい」

そう言うと、さらに束ねた髪を引っ張られる。

わたしは苦痛で顔を歪める。

「それだよ。その表情だよ。堪らないな」


うっとりするようなその瞳を向けられ、寒さを感じる。


完全に狂っている。


「シャンディ!」

わたしは師匠の方を見る。

お互い、言葉にはしないがわかっている。


この場合は自ら好機を作る!


「王よ!切りたければ切れば良い!」


思いっきりマッキノン王を睨みあげると、なにが面白いのかニヤリとされた。



その時、遠くから地響きに似たような音とともに大勢の軍がこちらに向かって来るのが見えた。


マッキノン王も音の気配に気づいたようだ。


「娘、どっちの軍だ?」

マッキノン王の白濁した眼では眩しくて、遠くの国旗を判別することが出来ないのだろう。


正直に伝えることに少し躊躇する。

それは王にとって、良い知らせではないはずだからだ。

それでもここは腹を決める。


「両方です」


「…そうか」


わたしはその時のマッキノン王の表情を忘れることはないだろう。


穏やかに幸せそうに微笑んだ。

辺境伯令嬢、殿下とお互いの婚約者の愛を掴もうと奮闘しましたが、どうやら拗らせたようです

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