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瞬く間に両軍が一緒に到着した。
騎士団長をはじめ、隊長や精鋭部隊のみんなのよく知った顔が見えた。
そして、クリス殿下も一緒におられる。
クリス殿下の無事な姿をひと目見れて、安堵で熱いものが込み上げてくる。視界が歪みそうになるのでグッと抑える。
泣くのにはまだ早い。
そして、クリス殿下の傍らにクリス殿下と同じような為政者独特の雰囲気をまとった方がいるのが見えた。
きっとあの方がカーディナル殿下だ。
よく見ると、決死の覚悟でガフ領にクーデター成功の知らせを届けに来てくれたトム殿もおられる。
彼も無事にカーディナル殿下の下に帰られたんだ。
ふっと少し肩の力が抜ける。
マッキノン王は先ほどまで行っていた手当たり次第に人を斬る愚行をやめ、わたしの髪を強く握り締めたまま、両軍が到着するのをじっと待っていた。
白濁した眼で両軍を静かに見つめるその瞳は、先ほどまでの名のとおりの戦鬪狂である狂った王の瞳ではなく、威厳のある王としての眼差しだと傍にいて感じた。
「父上、もうこんなことはやめてください!」
到着したカーディナル殿下がマッキノン王を刺激しないように、少し距離のあるところから大声でマッキノン王に訴える。
「これが俺のやり方だ」
マッキノン王が声を張り上げ、そして再び思いっきりわたしは髪の毛を引っ張る。
「いやああっ!!!」
あまりにも痛さに思わず叫んでしまった。
「悪いな」
わたしにしか聞こえないように、正面を見据えたまま表情を変えずにボソッとマッキノン王が呟く。
「政権なんぞくれてやる!!目指すは鉱山だ!」
マッキノン王が声高らかに叫ぶ。
妙な違和感。
マッキノン王は今回は本当に鉱山が欲しいのか?
先ほどの両軍が一緒に来たことを知った時の穏やかな表情を思いだす。
そしてさっきの「これが俺のやり方」と言う言葉。
ああ、そういうことか。
やっと、彼の真意がわかった。
わたしはマッキノン王を見上げた。
「なぜ、素直にならないの?本当の目的は王派を処分して、カーディナル殿下がクーデターを成功させることだったのでは?」
マッキノン王の頬がピクっとしたのをわたしは見逃さなかった。
「黙れ!うるさい!!!」
マッキノン王が剣を振りかざし、もの凄い勢いでわたしに振り下ろした。
防がなければと思った時にはもう遅い。
間に合わない!!
ギュッと目を瞑り、死体になる覚悟を決める。
ザクッ!!!!!
わたしは頭にすごい衝撃がきて、その反動で地面に顔から転げた。
頭に風を感じ軽い。
わたしの束ねた髪の毛をマッキノン王に切られた。
そして、切った髪の毛の束を王はまだ握り締めている。
この一瞬の隙の好機を逃すまいとシャムロックが駆けてきて、マッキノン王に大剣を振り下ろした。
ガゴンッ!!
鈍い金属音がする。
防ぐことが出来ずにまともにマッキノン王はシャムロックの剣を受ける。
マッキノン王の立派な金属の鎧に大剣が当たった衝撃音が辺りに響いて、地響きがするような勢いでマッキノン王が倒れた。
わたしはすかさず起き上がり、彼が思わず手離した剣を遠くに蹴る。
そして、師匠のシャムロックが王の側に立ち、ゆっくり言葉をかけた。
「王よ、俺たちの時代は終わったぞ」
「わかってる。眩しいな」
シャムロックが王の言葉の真意を汲み取ったんだろう。
「ああ。眩しい」
いつのまにか、太陽は雲で隠れているのに。
深く刻まれた皺をより一層深くしながら、シャムロックは微笑んだ。
その後は、大勢の者の手でマッキノン王を押さえ込み縛り上げる。
カーディナル殿下もマッキノン王の側に来ると跪いた。
「カーディナル、俺を殺せ」
マッキノン王は横に跪くカーディナル殿下を見ずに、真正面を見据える。
「そんな楽なことはさせませんよ。その瞳をしっかり見開いてわたしの時代をよく見てください」
「平和なんぞ、むず痒い」
カーディナル殿下が困ったような表情をされる。
マッキノン王はまだ真正面を見据えたままだ。
「立派にやれ」
現場が怪我人を運んだり後処理に追われる喧騒の中、カーディナル殿下にしか聞こえないよう蟻が囁くような小さな声でマッキノン王が囁いた。
カーディナル殿下が「はい」と返事をして、淋しげに微笑んだ。