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76 - 第76話 パート先で⑵

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2025年03月31日

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◻︎駒井の変化



由香理に色々教えてもらって、駒井はどんどん綺麗になっている気がしてる。

どことなく色気のようなものも醸し出してきたし。


「あ、やったのね、ネイル」

「うん、どう?」

「ワンポイントが可愛いね、いいと思う。ね?美和子さん!」


由香理に話しかけられて、私も会話にはいる。ピンクよりもえんじ色に近い、粘膜色っていうんだっけ?そんな色に一粒だけ、クリスタルガラスのようなビーズが付けてある。


「うん、落ち着いてていい色だね。ね、その左手の薬指のビーズって、何か意味があるの?」

「えっ!あ、特に意味はないけど。どうせなら何か飾りがあった方がいいなって思ったから」

「ふーん、なんだか意味深な気がしたから、あ、それで、おいくら?それ」

「8000円だった」

「うっわ!結構高いんだね!美味しいもの食べれるよ。で、なんでネイルしたの?」

「あの、明日、友達と会うからちょっとおしゃれしてみたくて」

「あ、そういえば、明日お休みだったね、駒井っち」

由香理が言う。


もしかして男と会うとか?と聞こうかと思ったけど、やめておいた。

私が言えることじゃないよなぁと。

その代わりに男友達の話をする。


「友達かぁ。私も友達に会う時くらい、ちょっとはオシャレしようかな?もちろん、男友達だけどね」


「えっ?!」


由香理も駒井も私を見た。


「友達って、男友達なんですか?会うってデートですか?」


この時の私の頭の中には、雪平さんのことはなく、飲み友達の瑞浪誠司がいた。

友達といえば、筆頭は誠司だと思う。


「男だからって意識したことはないなぁ。楽しいお酒が飲めれば男女関係ないけど、女ってどうしても愚痴が多くなるからね、私は男友達のほうが多いよ」


なんとなく危なっかしい駒井に、ちょっとだけ釘を刺す。

深入りしないで友達の方がいいよと言いたくて。


「美和子さんは、サッパリしてるから男性も気楽に付き合ってくれるんでしょうね、なんかうらやましいな」


由香理が納得したふうに言う。


「サッパリかどうかわからないけどね、どうせ過ごすなら楽しい時間の方がいいでしょ?だったら男女のあれやこれやは、邪魔になるだけよ。不倫が本気になって離婚してってなると、また別だけど。私は家族が大事だから」


「美和子さんとこは、家族も仲良さそうですよね。この前も旦那さんが送迎してくれてましたよね?」


「あ、ちょっとひき逃げされて怪我したから、心配して送迎してくれただけ。どこのご主人もそうするでしょ?」


「ひき逃げ?!」


そこに由香理が驚く。


「うちは…どうかな?しないんじゃないかな?」


駒井は、下を向いたままそう答えた。


「まぁ、せっかくオシャレしたんだから、友達をびっくりさせちゃえ!最近の駒井っちは綺麗になったからね」


ぽんと背中を叩いて、仕事に入った。

駒井が会うという友達とやらは、そういう関係の男だろうなと思った。

そのことを隠し通すつもりなら、私に話を合わせて夫のことは褒めておいたほうが疑われないのだから。




「駒井っちね、フルタイムに変更したみたいなんだけど、美和子さん、理由聞いてない?」


始業前に由香理が話しかけてきた。


「いや、聞いてないけど。学費が必要になるからとかじゃないの?」

「それもあるか。でもなんていうか、最近の駒井っちは余裕がないように見えるんだよね。メイクもピアスもしてるけど、なんていうのか表情がね、暗いんだよ」

「それは私も気づいてた。あとで聞いてみるわ」


ネイルをして友達に会いに行ったという日から、駒井の様子が少しおかしかった。

前日はあんなに楽しみにしてたみたいだったのに、次の日は思い詰めたような感じで、頻繁にトイレに駆け込んでいたのはきっと、スマホを確認していたんだろう。

そんな日がずっと続いている。以前のようにミスをすることはなかったけど、あきらかに様子が変わっていった。

悩み事があるなら聞いてみようかと話しかけたこともあったけど、迷惑なようで避けられてしまった。なんだかんだでそのまま2週間以上が過ぎている。

そして勤務時間の延長らしい。


___男か?ヤバいやつだったのか?


詐欺だったんじゃないのだろうか?

そして、お金を渡してしまったんだろう。それもまとまった額のお金を。



せっせと仕事をしている駒井の顔は、青ざめて見える。その時、マネージャーがやってきた。


「駒井さん、明日の休暇届なんだけど、変更してもらえないかな?お得意様から大量発注がきてるのよ」


「いえ、あのどうしても休まないと」


「最近、お休みが多いよね?それも突然の。何かあったの?勤務時間を長くしてもこんなにお休みが多いと、こちらとしてはちょっと困るのよね」


「…すみません」


「あの!」


見かねて私が間に入る。


「明日、私時間延長するので、大丈夫ですよ、駒井さんは用事があるみたいだから」


「でも、相当な発注よ、とても遅くなるかもしれないけど、いい?」


「いいです、そのつもりで覚悟してくるので。だから、ね、駒井さん、明日は用事を済ませてきて。またその後私の分も頑張ってくれればいいから」


「美和子さん、ありがとうございます!」


「まぁ美和子さんがそれでいいなら、構わないわ。でも、あんまりこんなふうな突然な休みは、今後気をつけてね。いくら主婦が働きやすい職場とは言っても、あなたのためだけではないのだから」


「…はい、気をつけます」



その日の仕事の帰り、偶然スーパーで駒井を見かけた。駐車場でスマホを出して何か連絡をしてるようだった。その後、スーパーの端っこに向かった。


___こんなことしちゃダメってわかってるけど


私はこっそり駒井の後をつけた。流行りの主婦探偵かよ!と自分にツッコミながら。


柱や車に隠れながら付かず離れずでつけていく…これって、第三者から見たら私の方がキョドってる?



「わっ!!」

「ひゃっ!!」


突然後ろから大きな声をかけられて、尻餅をつきそうになった。


「何してるの?美和子さん」


声をかけてきたのは隣の奥さんの来栖弥生だった。











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