コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
〜愛之助〜 また犠牲者が出た。詳細は分かっていない。そんな訳で俺は外に出たがることの少ない秀香を引っ張り出して全てをかなぐり捨て、車を走らせている。遠くに見えるは村の影。黒い霧が辺りを侵食している。森へ入った。ここからは歩いていこう。立派な洋館が現れた。何とも禍々しい場所だ。鬱蒼とした森の中で古びた家屋を発見。偶然、鍵が空いていたので入る。自動ドアとは気が利いている。さて、部屋にやってきた。不気味な書斎。書斎らしからぬ人体実験のような痕跡。ここで研究でもしようとしていたのだろうか。机の上には女性の死体。これは一体どういうことなのか。これといった傷も汚れもない。そして……足もない。近くには松葉杖。痛ましすぎる。彼女の心境は……
「愛之助。赤い靴という童話を知っていますか?」
「異人さんに連れられて行っちゃう童謡のこと?」
「童話だと言いました💢」
な、なるほど。今回はそれが元になった童話なのか。
〜秀香〜
主人公は病弱な母と暮らしている女の子カーレン。貧しかったのでいつも夏は裸足、冬は大きな木靴で歩いていたといいます。あんまり痛々しいのでカーレンに靴屋のおばさんが赤い靴を縫ってくれて、それを履いて過ごすようになります。しばらくして母は亡くなってしまい、カーレンは葬儀に初めて赤い靴を履いて行きました。
「葬儀に履いていく靴って黒とかじゃないとダメなんだよね?」
「そうですね」
そこに馬車でお年寄りの奥様が来て、カーレンを引き取ってくれるのです。その時に赤い靴は焼かれて代わりに綺麗なものをもらいました。色々なことを習いながら美しく育っていったカーレン。ある日、教会に履いていく靴を買う時に店先の赤い靴を奥様に赤いということを伝えずに無断で買ってもらってしまいます(奥様は目が弱っていて赤い靴ということが分からなかった)。
「教会も白や黒や灰の靴じゃないとダメなんだよね?」
「そうですね。実はこの前に旅行でカーレンの国を通りかかった王女の赤い靴に見惚れるシーンがあります」
そんなカーレンは自分でどうしようもできなくなるほど赤い靴で踊ることに魅入られていきます。奥様が病気に臥せてもなお舞踏会に通うことをやめませんでした。そしてついにその時は来てしまいます。カーレンの足は完全にコントロールを失い、踊り続けて止まれなくなります。靴が勝手に踊らせていたのですね。靴も完全に脱げなくなってしまって、教会まで踊りながら向かうも剣を持った天使は『さあ、踊れ!』と聞いてはくれません。ついに奥様の葬式さえカーレンは行けませんでした。靴はカーレンをどこまでも引っ張っていきます。イバラから……切り株まで……。荒れ野までたどり着いたカーレンは決意しました。
「足を切るしかない……と」
「荒技……」
そしてなんとか首切り役人の家まで向かって依頼をしました。役人がオノで両足を切り落としてくれたお陰で踊りは止まったけれど……
「切り離された靴は足と一緒に畑を越えてずっと踊り続けて深い森の中へ行ってしまったそうですよ」
「足だけが勝手に一人で踊ってるって冷静に考えてヤバくない?」
「冷静にならなくてもヤバいんですよ……」
そして役人に松葉杖を用意してもらったカーレンは教会まで向かい、踊り続ける赤い靴に立ち会ってしまいます。しばらく泣き続けた数日後のある日曜日に何とか出かけたけれど赤い靴は付き纏い続けます。本当に自分の罪を後悔したカーレンは牧師館で奉仕し、ある日曜日に教会で天使たちに罪を赦されカーレンの魂は神様の元へとんでいくところで物語は終わります。その時のカーレンの魂は本当に喜びと平和に溢れていた……とさ。
「というのが赤い靴という物語ですね」
奇妙なことに物音が聞こえた部屋には誰もいない。もぬけの殻……でもなさそう。隣にもあったので部屋に侵入。鬼の居ぬ間に何とやら……と思ったけれど。
「ここは鍵がかかっていますね」
「うん。どこかに鍵か何かあったりしないのかな……」
「愛之助。音を出しますよ」
「?」
「響き渡れ、ノック音!」
「秀香⁉︎」
〜愛之助〜
「さぁたのもう!」
素手で扉を壊しやがった、この従兄妹。鍵は最後まで見つからないままだったがコイツで代用できる。普段は外に出たがらない奴のフィジカルじゃない。てか事件捜査ってフィジカルで突破できるんじゃない? この状況において背中を預けるに足るヤツなのは間違いない。やってきたのは犯人の研究室。盛大だな。インテリアの担当の方がちょっとハッチャケすぎた感じかな? 大量の資料が置かれていた。置かれてるものはシリンジと瓶か? 奇妙な日記を見つけた。‘『とあるモノ』。それは強大な力を持っている。そう。世界を己の理想どおりに創り変えられるほどの力’……世界を作り変える……? 自分が支配者に……? ある意味すごい怖いことだと思う。いや。ある意味でなくても怖いことなのだろう。どんどん読み進めていく。それ以降は字が潰されていてところどころしか読めない。単語はぽちぽち読める。血清、被験体。実験台……? 材料……? 何やら物騒な単語だ。これはきな臭いことになっていた。
「「とあるモノ……?」」
奇跡的にハモってしまう。本当に『とあるモノ』ってなんだ……? そのつもりではあったが、まだまだ捜査が必要ということだろう。
「マジかよ」
「マジですよ」
自分たちで言っておいて口調が平坦なのが逆に怖い。こんなの絶対おかしいよ。誰のせいでこうなっている。犯人は何をしようとしていたというのやら。恐らくこの日記の字を潰した奴と見て間違いはないだろう。もしかしたらあの日記も犯人のものなのかもしれない。日記は忘れずに回収。色々と分かるかもしれない。事件のことも、犯人のことも。そして……『とあるモノ』なるものがなんなのかも。