テラーノベル
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それから、どれくらい時間が経ったのか分からない。
昼休みが終わって、
授業がいくつか進んで、
気づけば頭の中は別のことで埋まっていた。
部活の話。
委員会の仕事。
同じ委員会で、委員長が休んだから、その分の連絡を内々で回したり。
やることは多くて、
でも、ふとした瞬間に思い出す。
(……涼ちゃん)
保健室。
今どうしてるんだろう。
行かなきゃ、と思うのに、
なぜか足が向かなかった。
(俺が行っても、邪魔かもしれないし……)
そんな言い訳を、頭の中で並べていると、
ふと、若井の顔が浮かんだ。
(あ、若井に行ってもらおうかな)
それなら。
それをきっかけに、仲良くなってくれたら。
そんな、都合のいい考えが浮かんで、
俺は若井のところへ行った。
「なあ若井」
「なに」
「先輩のこと、保健室見てきてくれない?」
若井は、露骨に嫌そうな顔をした。
「……なんで俺」
「ちょっとでいいからさ」
「別に、俺が行く理由なくない?」
「頼むって」
一回。
二回。
何度もお願いする。
若井はしばらく黙っていたけど、
やがて小さくため息をついた。
「……まあ、じゃあいいよ」
その一言に、俺はほっとした。
「ありがとう、若井」
「期待はしないで」
若井はそう言い残して、教室を出ていった。
その後、俺は走り回った。
サッカー部の顧問に、
「今日は早退します。若井もです」
と伝えて、
次に、吹奏楽部の顧問のところへ行って、
藤澤先輩が体調を崩したことを説明して、
「今日は休みをください」
と頭を下げた。
顧問は少し心配そうな顔で、
「そうか、分かった」
と言ってくれた。
全部終わって、
ようやく一息ついたとき。
胸の奥に、遅れて不安が広がった。
(……若井、大丈夫かな)
仲良くさせたい、なんて思って。
勝手に役目を押し付けた気がした。
(でも……涼ちゃんも)
あの、倒れる直前の顔。
苦笑いの裏にあった、言葉にできない表情。
俺は、時計を見上げた。
保健室の方角を、
何度も、何度も。
(早く……無事だって、聞きたい)
そのとき、
まだ俺は知らなかった。
このあと、
若井が見てしまう“先輩の本当の姿”を。
そしてそれが、
三人の関係を、決定的に変えることを。
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