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猫塚ルイ

(ケンジ視点)
「ナ……健司さんは、あなたには渡しません!!」
静かなカフェに、穂乃果の凛とした、けれど必死の叫びが響き渡った。
自分の背丈よりもずっと大きなナオミの前に立ちはだかり、小さな両手を広げて直美を遮る穂乃果の背中は、微かに震えている。それでも、その足は一歩も引こうとはしなかった。
その言葉、その背中に――。
過去のトラウマに縛られ、深い闇の底に沈みかけていた健司の瞳に、ハッと鮮烈な光が戻った。
(ああ……そうか。アタシはもう、あの頃の孤独な男の娘じゃない。アタシを全肯定して、こんなに必死に守ろうとしてくれる、愛おしい女の子が目の前にいるんだから――)
「……ふっ」
健司の肩から、嘘のようにすっと余計な力が抜けた。
どこか哀れみすら含んだような、けれどいつもの余裕に満ちた、低く美しい鼻笑いが洩れる。
健司――ナオミはゆっくりと顔を上げると、驚いて目を見開いている穂乃果の小さな肩に、そっと大きな手を置いた。
「ありがと、穂乃果。――その言葉だけで、アタシはもう充分」
その声音には、いつもの『ナオミ』としての妖艶な響きと、『織田健司』としての力強い男の響きが、絶妙に美しく混ざり合っていた。
ナオミはスッと立ち上がる。仕立ての良い私服に包まれた、モデルのような長身が直美を見下ろした瞬間、カフェの空気が一変した。ネオンの夜を統べる女王の、圧倒的なオーラが彼を包み込む。
「は、はぁ? 何よ、健司……その女、何言って――」
「言っとくけど」
直美の言葉を、冷徹極まりないトーンでバッサリと遮る。
「1000万積まれたって、アンタみたいな性悪女との復縁なんてお断りよ! ごめんこうむるわ!!」
「っ、なっ……!?」
「何が『もう一度付き合ってあげてもいい』よ。身の程を知りなさいな。人のアイデンティティを気持ち悪いと踏みにじるような中身すっからかんの女なんて、こっちから願い下げ。――アンタなんかより、アタシを真っ直ぐに見てくれる穂乃果の方が、100倍魅力的で可愛くって、最高にイケてる女なんだから!」
きっぱりと言い放たれた、容赦のない全否定。
プライドを粉々に砕かれ、「なぁッ……、なによそれ……ッ!!」と顔を真っ赤にして怯む直美。
ナオミはそんな哀れな女に見向きもせず、長い足でスッと直美を押しのけると、穂乃果のテーブルから自分の荷物をひょいと持ち上げた。
そして、まだ呆然としている穂乃果の小さな手を、男らしい大きな手で、今度は逃がさないようにぎゅっと力強く握りしめる。
「ほら、穂乃果、帰りましょ! こんな澱んだ空気の店、一秒だって居たくないわ」
「え……っ、あ、はいっ!」
直美がカフェの真ん中で屈辱に震えているのを背に、ナオミは穂乃果の手を引いて、堂々と、迷いのない足取りで店の扉を押し開けた。
コメント
1件
読み終えました……っ!😭✨ 穂乃果が小さな背中で健司を守ろうと立ちはだかるシーン、胸がぎゅっとなりました。「あなたには渡しません」ってあんなに震えながらも言い切るの、本当に強い子だなって。そんで健司がその言葉で闇から浮上して、最後にあの性悪女をバッサリ切って捨てる快感たるや…!「100倍魅力的で最高にイケてる女」って言い切るところ、最高でした。 そして何より、手をぎゅっと握るラスト。タイトル回収にもなってて、甘くて苦しいやつ……好きです。