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「行ってくるね!」
『はぁい、気を付けるのよ!
行ってらっしゃい。』
母に元気よく挨拶をして学校へ向かう。
今日は卒業式だ。
時間とゆうのはすごいもので、この二ヵ月半で絵里は心の傷もだいぶ癒えていた。
そしてあれ以来、父と母と過ごす時間が増えている。
父はある日、絵里にこう言った。
『兄さんの大切な子供だから、絵里が悪い事をしても怒るのにも気を使ってしまった。
母さんもそうだった。
絵里を大学まで出して世間に恥ずかしくない子供にしなければいけないと、プレッシャーもあった。
・・・だが、その考えは間違っていた。
絵里はさみしかったよな。
絵里が入院した時、気が狂うほどに母さんと嘆いた。
母さんは兄さんの位牌に向かって何回も謝り、泣いていた。
でも、その時に何か違和感を感じたんだ。
何か違う、と―――。
そしてケンくんに会った時、それに気付いた。
母さんはケンくんに掴み掛かりそうになっていた。
私は母さんを止めたが、自分は止められずケンくんを殴っていた。
私たちの大切な娘に何してくれたんだ、と・・・。
私たちは絵里を兄さんからの預かり物のように感じて、ここまでずっと育てていたのかもしれない。
確かに義姉さんが消えた時、絵里は兄さんからの預かり物だった。
しかし時がたつにつれ、絵里は私たちの本当の子供になっていたんだ。
母さんは他に子供は望まなかったし、私も絵里だけで十分だった。
その事に気付くのが遅く、絵里にはさみしい思いをさせたかもしれない。
すまなかった。
兄さんも絵里を愛しているが、私も母さんも絵里を心から愛している。
遅いかもしれないが、これからもっと心から信頼しあえる家族になろう。』
その言葉を聞き、絵里は父に抱きついた。
すごく嬉しかった。
今は母も深夜に出かける絵里をしかり、世間体ばかり気にする事もなくなっている。 茜と会う日も『いってらっしゃい』と笑顔で送り出してくれる。
失った物は大きかったけど、本当の家族を手に入れた。
学校に着くと、みんなソワソワしている。
卒業する先輩たちに告白したいとか、さみしいとか、みんないろんな想いがあるようだった。
絵里も、複雑な気持ちで今日を迎えている。
・・・もちろん、ケンのこと。
ケンも絵里も公立だから、今日はケンも卒業式だ。
そして、ケンは明日地元を離れてゆく―――