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「だけど…私を壊したのは、アルベルトよ……こんな気持ち、抱きたくなかった」
「………っ」
「でも……その破片を拾い集めて抱きしめてくれるのも…あなたしかいないの」
「わたしも、ですよ…っ」
そう言ったあと彼女と私は力一杯抱きしめ合う。
どちらからともなく顔をあげて見つめ合うと──
「エカテリーナ…最初で最後の愛を、抱かせてくれて…ありがとう……ございます」
お互いに愛を告げあう。
「……私こそ…これから先、来世がもしあっても──アルベルトが誰を愛そうとしても、私の死に顔がその邪魔をしてあげる」
「……私こそが、あんたの最期の女よ」
「…それを言うなら…っ、こんな男と一緒の道を選んでしまったこと───貴方の一生の後悔として、添い遂げてあげなくては、なりませんね…っ」
今この瞬間だけは、過去も未来も関係ない。
復讐も、運命も、呪いも、何もかも。
それらすべてが、どうでもよく思えた。
ただ目の前にいる彼女と過ごす、この一瞬だけが現実だった。
私はゆっくりと息を吐いた。
空気は重く、薄い。
呼吸のたびに肺が軋むように痛む。
この空間の酸素が、確実に尽きかけていることを私は理解していた。
だが不思議と、恐怖はなかった。
むしろ静かだった。
まるで、長い戦いの終わりに辿り着いたような、奇妙な安堵が胸の奥に広がっていた。
視線を横へ向ける。
そこに、エカテリーナがいた。
彼女は壁にもたれるように座り、静かに呼吸をしている。
蒼白な顔。
額には汗が滲み、呼吸は浅くゆっくりになっている。
それでも…その瞳は、まだ美しく光っていた。
私の知る彼女のまま。
どこまでも強く、どこまでも気高い。
「……」
私は、何も言えなかった。
言葉にすれば、この静かな時間が壊れてしまう気がしたからだ。
彼女も同じだったのだろう。
しばらくの間、私たちはただ抱きしめ合い、沈黙を共有していた。
遠くで瓦礫が崩れる音がした。
どこかで水滴が落ちる音もする。
だがそのどれもが遠く、曖昧に聞こえる。
この世界に残されているのは、私と彼女だけのようだった。
エカテリーナがふっと息を吐く。
そして、少しだけ口元を歪めた。
苦笑とも、諦めとも取れる表情。
「……最悪で、最高ね」
その言葉は、あまりにも彼女らしかった。
私は思わず小さく笑ってしまった。
「……ええ」
頷くしかなかった。
最悪だ。
状況はどう考えても救いがない。
逃げ道はない。
未来もない。
だがそれでも、彼女と共にいるこの時間は確かに幸福だった。