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それは紙塔來雨が小学1年生の頃のことだった。
月の研究をしていることで有名な草薙家の者が近所に1週間程滞在することを父から聞いた。
元々近所には研究家の中年男性が住んでいて、その男性が草薙家の研究家と話をしたいからここに滞在するという噂だ。
当時の來雨はそんなことに全く興味が無く、草薙家という代々月の研究をしている家系があることすら初めて知った。
その話を聞いてから6日経ったとき、買い物から帰ってきたばかりの母親があることを話した。
「近くの公園に草薙家の女の子が1人で遊んでいたから、來雨も一緒に遊んでみればどう?」
母親は数日前に草薙家と思わしき人達と近所に住んでいる研究家の中年男性が話しているところを見たことがあるため、公園にいた子が草薙家の娘であると分かったそうだ。
「お兄ちゃんに頼めば?」
「同じ性別で年も近いから、來雨の方が適任ね。」
「まあ、暇だし行ってみる。」
「4時半までには帰ってきなさいよ〜」
來雨が外へ出るところを見送った後に、母親は草薙家の女の子の様子を思い出す。
「そういえば、あの子変な挙動をしていたわね。確か大きな石を空中に浮かせているように見えたけど…」
そんな芸当は大人でもできるわけがない。
母親は、きっと疲れていて変な見間違いをしたのだろうと思った。
自宅であるマンションから出て、ほんの少し歩けばすぐに公園が見えてくる。
公園には來雨より1歳程幼い緑髪の女の子だけがいた。
見知らぬ子供に話しかけることを來雨が緊張する中、女の子はジャングルジムの頂点まで届くような大ジャンプをした。
「あたしと家族だけがこの石…マタールナって名前だっけ?これでこんなことができるのよ。すごいでしょ〜?」
石ころと呼ぶにはかなり大きめの幾つかの石を女の子は空中に浮かばせる。
來雨はこの石達を欲しくなり無理矢理奪取することを考えたが、石を使って反撃される可能性が高い。
まずはその石がある場所を聞いて、その場所に行って拾い集めることをしようと思った。
「すご〜い、天才!この石はどこにあったの?」
「お月様にあるんだって。もしアンタがマタールナを取ってきても上手く使えないと思うけどね〜」
「君は他にはどんなことができるの?」
「えっとね〜マボロシ?っていうのを見せたりとか、とにかく色々すごいことができるのよ!」
「こんなものよりもっと凄いものをあげるのよ、少し待っててね。」
來雨はそう言い残して、マンションへ走って戻る。
玄関の扉を開けて、5歳の誕生日に買ってもらった3000円の魔法少女系のステッキを取る。
「草薙家の女の子はいた?」
「いたよ、その子とこれを使って遊んでくるね。」
あの石が全部入るぐらいの大きめのバッグにステッキを入れて、急いで公園へ向かった。
「もう、待ちくたびれた〜」
「ごめんね〜これを見てくれる?」
バッグの中のステッキを取り出して、女の子に見せる。
「可愛い〜!」
キラキラと輝いてハート形のマークが付いた虹色のステッキの玩具は、女の子を魅了するには充分だった。
「このステッキを使うとね、この石…マタールナ?よりもすっごい力を使えるんだ。そして、このステッキを使えるのは世界で君1人しかいない。ステッキさんも君に使ってもらいたいよ〜!って言ってるよ。」
「欲しい、欲しい!」
「これをあげるね。その代わりにマタールナを全部貰うよ。」
「でもマタールナ無くしちゃ駄目ってパパとママが言ってた。元々このマタールナも勝手に持ち出しちゃったし…」
「マタールナを私にあげることは、無くすってことじゃないから駄目ではないよ。それに君がステッキを持っていたら、パパとママが絶対にいっぱい褒めてくれる。」
「ほんと?それならマタールナあげるから、ステッキちょ〜だい。」
「もちろん。」
來雨のステッキと、女の子がマタールナと呼んでる石達を交換する。
「私はそろそろ帰るね。最後に約束だけど、君のパパとママには小学校の近くで髭の生えたおじさんがステッキをあげてマタールナを貰ったって言っておいてね。」
「なんで?」
もし女の子の両親がどのようにマタールナを無くしたのかを問われて女の子が事実を話した場合、私がマタールナを持っていることを簡単に特定できてしまうからだ。
「そうしないとこのステッキが使えなくなっちゃうんだ。ばいば〜い。」
まだこの頃の來雨は、マタールナという物質の貴重性とそれが招く災いを知らなかった。