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猫塚ルイ

「お父さん……これ、どうぞ。とりあえず、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか……っ。本当は今すぐにでも戻りたい気分だ。だが、ナオミちゃんが全て話すと言うんだから、仕方あるまい」
病院では誰もが恐れおののく佐藤音治院長が、娘の前で仏頂面をして座っている姿は隣の彩美にとってはもはや怪奇現象以外の何物でもない。
(なにがどうなってるの? ……っていうか、いま院長先生、この超絶イケメンの織田さんのことを、ナオミちゃん……って呼んだ……!?)
完全にキャパオーバーを起こして白目を剥きかけている彩美をよそに、ナオミが仕切り直しとばかりに軽く手を叩き一同の視線を一点に集めた。
「まぁ、色々と思うところはあると思うけど、今日はせっかくのパーティなんだから、お酒とお料理食べながらでも話は出来るでしょ? 今夜は楽しみましょ。ほらほら、音治さんも難しい顔しないで。ちゃんと納得いくように話はするってば。ね?」
「……ま、まぁ……キミがそういうなら……」
音治はどこかバツの悪そうな顔で、差し出されたグラスに手を伸ばした。
「いい? みんなグラスは持ったかしら? ほら、穂乃果。アンタもよ。今日はみんなで楽しむの」
「私も、いいんですか?」
「アルコールが入れば言いにくい事だって言いやすくなるでしょ?」
パチンとウィンクされ、それもそうかと湊からグラスを受け取る。 ナオミの乾杯の合図を皮切りに盛大なクリスマスパーティが始まりを告げた。
「穂乃果ちゃん、ごめん、この料理向こうに持って行って」
「あっ、はい!」
湊とナオミは飲み食いしつつ、料理やドリンクを提供したり、飲みながら談笑したりと、いつもと変わらない活気で店を回している。ただ一つ違うのは、カウンターの特等席に、いまだにどこか気まずそうな顔をした佐藤音治院長が鎮座していることくらいだろうか。
「……それにしても、色々びっくりし過ぎてツッコミが追い付かないよ。でも、取り合えず安住さんが好きなのは織田さんなんだ、ってのだけはわかったよ」
「えっ!? な、な、なん……でっ」
オレンジ色のカクテルに口を付け、ポテトを咥えながら彩美の口からいきなり飛び出した言葉に驚いて、穂乃果は持っていたグラスを落としそうになった。 彩美とはまだろくに話も出来ていないのに、なぜ、わかったのだろうか?
「あはは。なんでわかったの? って顔してる。……もー、私たち、何年一緒に働いてると思ってるの? 最近急激に綺麗になったのは恋してるからだろうなぁとは思ってたけど、安住さんが彼を見つめる視線がさぁ、全然違うのよ」
彩美はそう言って楽しそうにケラケラと笑う。その鋭い観察眼に、穂乃果は顔が完全にゆでダコのように真っ赤になっていくのが自分でも分かった。
「そ、そんな、視線が違うなんて……私、そんな分かりやすい……?」
「分かりやすすぎ! もうね、織田さんが動くたびに、目がずーっと後ろを追いかけてるの。完全に恋する乙女のそれだよ」
隣でポテトを齧りながら、彩美が我が事のように嬉しそうに目を細める。
そんなガールズトークが聞こえていたのか、カウンターの奥でカクテルシェーカーを振っていたナオミが、片方の眉を上げて艶然と微笑んだ。
「やぁねぇ、彩美ちゃん。アタシっていう絶世の美女が目の前にいるんだから、穂乃果の目が釘付けになっちゃうのも無理はないわよ?」
「絶世の美女って言うより、超絶イケメンって感じですけどね。って言うか、織田さんって素の時はそんな感じなんですね」
「あっ、彩美ちゃん……っ」
慌ててフォローを入れようとする穂乃果だったが、彩美は何が悪いのか?とでも言わんばかりに首を傾げ、ナオミの方へと視線を向ける。
「えー? 私はいいと思いますよ? なんか面白いじゃないですか。だってそれも個性でしょ?」
彩美が屈託のない笑顔でそう言い切ると、ナオミは一瞬だけ驚いたように目を見張り、それから本当に嬉しそうに、くすくすと肩を揺らした。
「あら、彩美ちゃん。アンタ、なかなか見る目があるじゃない。気に入ったわ。ちょっとまってて。今、とびきり美味しいカクテルをサービスしてあげる」
「やった! 織田さん、あ、ナオミさん、大好き!」
すっかり意気投合して乾杯している二人を見て、穂乃果の胸の奥が、じんわりと温かいもので満たされていく。
自分が大切に思っている大好きな場所を、職場の親友である彩美も同じように「良い」と受け入れてくれた。そのことが、たまらなく嬉しかった。
コメント
1件
彩美の観察力、さすがですね〜!穂乃果ちゃんが真っ赤になっちゃうのも分かる気がする。それにしても、音治院長がナオミさんに「ナオミちゃん」って呼ばれて言いなりになってるの、ギャップ萌えすぎて笑っちゃいました(笑)。みんなで集まってクリスマスパーティ、賑やかで温かい空気が伝わってきてほっこりしました🥀